想い

噂は本当だった。

実際、キャンパスに描かれたものだから変わるわけはない。

だけど綺麗になっているという噂は曰く付きの噂の次に有名だった。


「私、綺麗になったでしょ?あの人のためなのよ。」

女性は泣きながらも悲しげに笑いながら言う。

それは私に言っているのではなかった。
そしてここにいる誰に言っているわけでもなかった。

ここにはいない画家に向かって言ったのだろう。


「あの人を一番想っているのは私よ。」

不意に私を見て言った。

「なのに……私…知らなかった…」


「あの人は天にいるよ。」

私の言葉に少しだけ目を見開いた。

「天に…いる?」

「行きたい?」

「……もちろん。あの人に会えるのならどこでも行くわ。」

私はポケットから新たな小瓶を出す。
そして、瓶の水を私の右手と女性にかける。

「ごめんね。濡れちゃって。でもこうしないと天に送ってあげられないんだ。」

「平気よ。」

微笑んで言う。

右手で女性の左手を掴み教を唱えるように呪文を唱える。

こんなときにふざけてると思われるだろうが、私としては生真面目に呪文を唱えるなんて恥ずかしいにも程がある。
なので私は目を瞑って俯いて唱える。

女性は唱えるうちにゆっくり霧のように消えていった。




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