事実


「………は?」

女性は理解できないらしい。
無理もない。

「部屋を出ていったきり戻って来なかったと言ったね?病に伏して亡くなったんだ。」

「え……だってそんなこと言ったことなかった…」

「病名は…癌でしたよね?」


「……はい。」

こんなときまで親族は答えない。
見かねた先程の世話役らしき男性が答えた。

「もとは胃からの発症だったけど、気付いたときには体中に転移して治療はできない状態だったみたいだ。」

女性は私を見つめたまま震えている。

「気付いたときって言っても、本人は前から気付いてたかもしれないけどね。体中に転移してるぐらいだから。」

「嘘…言わ…ない…で」

「こんな酷な嘘言わないよ。」

私に縋りつく女性の腕から力が抜けた。

「嘘…嘘……」

絨毯に手をついて呟く。

女性の過去の記憶の中に紡ぐと思い当たる記憶の欠片があったのだろう。

女性の目から涙が落ちる。

「あの人は…死んだのね……もう…居ないのね…」

私はどうしたらいいのかわからず立ち尽くす。

「ねえ、」

女性は顔を上げ私を見て声をかける。

「ねえ、私…、前より綺麗になったでしょ?」

私はハッとする。
依頼がきてから私なりに調べた。
その中にはこんな噂があった。




――あの絵の女性は20年前より美しくなっている――






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