曰くの理由3


結婚してからは財閥側の家に住んだ。

あの人には絵を描くための部屋が与えられた。

するとあの人は一日中部屋にいて、部屋に自分以外決して誰も入れなかった。
そして部屋の中に私の絵を飾った。
結婚する前と同様に毎日語りかけてくれた。

妻は毎日部屋のドアを叩き、絵はまだできないか、と聞いた。
あの人が描き上げた絵を妻に渡すと、すぐに妻は売りに出す。
そして得た金を自分と子供のためだけに使い切る。

あの人は描いた絵を全て持って行かれてしまった。

だけど、私の絵だけは一度も部屋から出さずに手元に置いてくれた。

あの人は言ったわ。


“定期的に新作を描いて妻に渡すのは、「遅い」と無理矢理部屋に入ってこないようにするためだ”


妻は完成した絵は全て売りに出すから私の絵も見つかれば全て売られてしまう。

それをさせないために自分の子供のように可愛い絵を渡すのだと。


まあ、そもそもあの人は妻も子供も一度も愛すどころか好意を抱いたこともなかったけれど。


そんな生活の中、あの人はふと部屋を出て行ったきり戻ってこなかった。




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