――― あの人はもともと病弱だった。 外になんて長時間出てられないほどに。 それ故、小さい頃から友達は作れなかったし、大人になって外に働きに行けないあの人のことを、家族や親戚は煙たがった。 あの人はいつも独りだった。 自分には何もできないことを理解していた。 そして、他人に出来ることが自分に出来ないのが嫌だった。 そんな自分が嫌だった。 だけど、絵を描くのだけは好きだった。 絵は、外に出ずに描ける。 楽器と違い、体の弱い自分でも描ける。 あの人はこんな自分にも出来ることはあるんだと、喜び、絵をひたすら描いた。 でもあの人は色んな景色を見てなさすぎる。 絵の上達も遅い。 それでも、描いた絵は自分の生きている証と言わんばかりに、絵画コンクールなどに出した。 結果はいつもお決まり。 それでも、審査員に一目でも絵を見てもらえたということが嬉しかった。 そんな生活が続いた。 そして、46歳にしてようやく専門家の目に留まった。 それからはこれまでの人生が逆転した。 絵画の世界であの人の名はどんどん知られるようになった。 描いた絵は全て高値で売れた。 そして一番変わったのは家族や親戚の態度。 それまて煙たがっていたのに、手のひらを返したように仮面のような笑顔で毎日のようにあの人のところへ訪れた。 あの人は外の関係ない人よりも自分の家族や親戚のことを恐れるようになった。 自分の身近な人が信じられない。 これなら前のままの方が良かったかもしれない。 誰か僕自身を見て。絵の価値よりも僕を見て。 そんな思いから、恋を知らないあの人は私を描いた。 自分の理想を詰め込んで。 いつでも自分を見てくれる人。 自分の絵を「綺麗だね」って絵の価値じゃなく、絵自身を見てくれる人。 私はそんなささやかすぎるあの人の望みを叶えた。 [*前] | [次#] ページ: topへ |