シオンはアタシの踊りに惹かれたんだろうか。

というか、役立つと思ったんだろうか。

本人が言ったんだから、そうなんだろうけど、それが全てなのかな。

もし、アタシが踊れなかったら、そもそもアタシを見ることさえなかっただろう。

アタシではなく踊りだった。

今。
たった今アタシが踊れなくなったらシオンはどうするのだろう。

聞いてみたところでどうせ

紅子は紅子だよ

というに決まってる。
実際に起きてないんだから、どうにでも言える。

じゃあ、本当に踊れなくなったら?
いつか、踊れなくなる日が来たとしたら?

アタシはどうなるんだろう?


試してみようと何度も思った。
踊れなくなった自分を演じてみようと。

記憶をなくしたフリ
アキレス腱を切ったフリ
足の裏に大きなガラス片が刺さったフリ
肩を壊したフリ

どれも出来なかった。
怖かった。

踊れないなら出て行け

って言われたら。
真剣な顔して言われたら。
実は嘘だよ。踊れるよ!

って言ったら

なんだ、ビックリした

って笑顔に変わったら。
それこそ怖い。
それなら知らない方がいい。
確かめない方がいい。



「紅子」

「うっわ!」

「何ぼーっとしてるのー?」

「シオンこそ、いつから後ろにいたんだよ!」

「紅子が夕涼みに行こうとしてるの見つけて着いて来たんだよー」

「最初からじゃねーか!」

「シオンが見つけたときにはもうぼーっとしてたけどねー」

「へー」

「何を考えてるの?」

「は?」

「シオンは、」

「顔ちけーよ!」

「紅子が大事だよ」




「アタシも。」

「やっぱりシオンのこと考えてたんでしょ。」

「何がやっぱりなんだよ」

「紅子はシオンのこと考えて、やましいことがあるときはこういうこと言うとシオンの目を見て答えるの。」

「はっ?試したのか!?」

「試してないよ。全部本当のことしか言わない。紅子に嘘はつかないよ。」

「そういう嘘いらない」

「嘘じゃないって!」

「じゃあ、



シオンはアタシのどこが好き?」

「え?」

「嘘つかないんだろ。言ってよ。」

「好きなとこー?うーん踊りがす…」
「やっぱアタシじゃないんだ!」

「えっ紅子?」

「うるさいうるさい!」

「うるさいって紅子が聞いてきたんじゃないのー?」

「もういい!もう言わなくていい!」

「シオン答え終わってないんだけどー」

「いいよ!聞きたくないから!」

「最後まで聞いてよ」

「やだ!」

「ちょっとどこ行くの?」

「関係ない!」

「シオンは関係ある!」

「手ぇ離せよ!」

「なんで聞きたくないのかわかんないけど




最初は紅子の踊りが好きになったからあそこから攫ったけど、今はどこが好きか聞かれてもわかんない」

「…離せよ」

「でも紅子がいないと嫌なんだよ」

「……」

「腐れ縁的な感じじゃない?」

「……」

「紅子、じゃあ、シオンのどこが好きか言ってよ。」

「自分で考えろ」

「何それーどうせシオンと同じなんでしょー

……紅子!夏もそろそろ終わりだし花火する?」

「する!」


アタシはシオンに着いて行った。

シオンの後ろ姿を見て
アタシを見捨てる背中じゃなくて
どこかへ連れて行ってくれる背中なんだと感じた。




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