ピエロの成り方



もうひとつの世界

 さて、物を現金に換えたところでかさばるのには変わりない。それに現金を持ち歩くのは物騒すぎる。銀行を使うのも、移動した土地にその銀行が対応していないと使えないから不便だ。

 さて、どうしようか。金も状況によっては不便だものだな。

 そういえば、湖に落ちた時自分が助かったのは何故だったんだ?助かったのは誰かが助けたからではないか?鷹から人間になったのは何故だ?誰かが自分を人間にしたからではないのか?

 それは誰だ

 何故今までその事を考えなかったんだ。

 湖に落ちた鷹が勝手に岸に上がるはずがない。鷹が勝手に人間になるはずがない。

 誰だ。そして何故そんなことをしたんだ。


 とりあえず、今晩泊まるところを探す。安さを優先した結果、シングルのベッドと机がどうにか収まってる部屋に決めた。風呂とトイレが付いてるだけ良いと思うことにする。

 ベッドの上で荷物を整理する。慌ててたから要らないものまで入っている。必要なものだけバッグの中に綺麗に入れ直す。

 そういえば、朝食以来食べていない。色々なことがあったから忘れていたが、久しぶりに飛んだし、家から金を隠した木まで歩いて往復したし、疲れたし空腹も思い出してしまったから結構限界だ。現金を少し持って外に出て軽食を買って戻る。ぼんやり窓から空を眺めながら食べた。

 あ、と思いだし、先ほど考えていた続きを考える。誰が助けて自分の姿を変えたのか。考え出したら無性に眠くなり、一瞬意識を手放した。

 ハッとして目が覚める。
…寝てた?
 きっと時間にすればほんの数分。しかし、夢のようなものを見てた気がする。内容を思い出す。

 自分は誰かと話していた。何故か相手に対して不満を持ったような態度で話を聞いていた。声も姿も思い出せないが、言っていたことはなんとなく思いだせた。

「もうひとつの世界を望むなら湖に落ちた瞬間の感覚を思い浮かべながら指を鳴らしなさい」

 どういうことなんだ?もうひとつの世界?もうひとつの世界ってなんだ?意味がわからない。でも、指を鳴らしてみれば分かるはず。

 パチン

 ……何も起こらない

「あっ感覚」

 感覚を思い浮かべるのを忘れてた。

……パチン

 一瞬脳が水の中に落ちたような感覚がした後目を開けた。

「ここどこだ」

 ホテルの一室に居たはず。なのに今視界に広がるのは塔のように高い建物。こんな建物初めて見たのに何故か自分の物である気がする。いや、この建物は自分のものだ。

 建物の玄関にから入ってみる。螺旋階段が建物の一番上まで続いているようで終わりがよく見えない。中央には真っ直ぐ伸びた透明の筒。これはエレベータらしい。下から見るとエレベータの各階の扉から放射線のように通路が伸びている。

 見たことがない光景に言葉が出ない。

 ただ、この世界には今自分だけしかいないと感じた。ここは自分が作って行く世界だと。

 ここで、ふと思い出した。金をここに持ってくればいいのではないかと。今自分は手ぶらだが、何かを持ってくるのは出来るかもしれない。

 戻り方は言われてないが、同じように思い浮かべながら指を鳴らした。

「あ、戻った。」
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