ピエロの成り方



現実

 この日もいつも通りにショーが終わり、狭い檻に戻されるところだった。
 見てしまった。

 象が鞭で打たれているところを。
 その奥では猫が蹴られていた。

 一瞬だったその光景が衝撃的だった。
 いつもは何も考えない檻の中で何度もあの光景を脳内で再生した。

 確かあの象と猫は今日のショーで失敗をしていた。
 だから鞭で打たれていたのか?
 だから蹴られていたのか?

 自分はそんなこと、された事ないが、きっと失敗をすれば自分も例外ではないのだろう。

 もともと人間なんて好きでも信じていたわけでもないが、人間に不信感を持った。


 それから、人間の動向に注目するようになった。
 自分はきっと周りに興味を持ってなかったから知らなかっただけで、実際は日常的に鞭打ちや暴力が振るわれていた。
 鳴き声をあげれば余計強く叩かれるから、皆声を押し殺していた。

 何故、自分がこれ程の事を知らずに今まで過ごしてきたのか、信じられなかった。

 そして、人間は金のためなら何でもする事も知った。

 たまに演目が変わる。
 それは、人間を飽きさせないため。

 演目が変わるごとに危険度が増していく。
 それは、話題を作って客を呼ぶため。

 すべては金のため。
 動物が命がけで臨むショーは所詮人間様の娯楽にすぎなくて、その陰であまりにも危険すぎる演目のせいで練習で命を落とす動物も少なくない。

 人間から見れば動物なんて見分けがつかないから代わりがきくらしい。


 初めて思った。


 −自分は一体何をしているのか−

 と。
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