ピエロの成り方
脱出
そんな中とうとう自分もミスをした。
見て知っていたけど、実際受けるのは想像以上だった。まさに地獄だった。地獄の方がましだと思った。こんなことが許されて良いわけがない。
ここにもうこれ以上とどまる気はしなかった。
ここから抜け出すことしか考えられなかった。
サーカスは好きだ。
でもこのサーカスは嫌い。
まるでサーカスを侮辱している。
自分ならもっと楽しいサーカスが作れる。
自分なら笑顔になれるサーカスを作れる。
自分はただの一羽の鷹にすぎないのにその自信だけはあった。
ここを抜け出せばどうにかなると思った。
常にショーか檻の自由がない中で、どのタイミングで抜けるかが問題だった。
下手をしたら殺されるだろう。
このサーカスで一番暴力を振るっているのは座長だった。
この座長がいなければほんのちょっとは良いかもしれない。
この座長に仕返しをしないと気が済まない。
この日、ショーが終わって自分を檻に戻すのは座長だった。
首と羽を掴まれて動けなかったけど、檻にかえされるその一瞬、今しかないと思った。
檻に入れて手を離した瞬間、座長の手より先に檻から出た。
いつもはおとなしい鷹がいきなり襲いかかってきたから驚いてとっさに抵抗なんてできなかったようで、ただただ、目を丸くして後ろに倒れた。
倒れて無防備となった座長の首を嘴で刺した。何度も、何度も刺した。
周りからは悲鳴が上がっていたような気がする。
目の前の座長が憎いだけで、他は何も考えていなかったから。
これまで身動きがとれぬほど狭い檻に閉じ込め、さらには動物を道具としてしか見ない、非道な扱い。
一体、自分が野生だったら、生まれて今までどれほどの景色が見れただろう。
今まで全てを奪ってきた代償はお前には払いきれない。
だから、せめて、今ここでお前の存在を消してやる。
まだ座長には息があったが、もうやめた。
すぐ死ねたら楽すぎる。動物たちが受けたのはそんな楽なものではない。せいぜい苦しんで息絶えればいい。
狭い倉庫がら飛び立った。
人間たちは悲鳴を上げてパニックだ。
動物たちは皆、ほっとした表情をしていた。
自分のためにやったが、他の動物たちのためにもなったなら、自分がやったっことは良い事だったのだろう。
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