ピエロの成り方



接近

 サーカスを作るには金が要る。ついでに言えば、食糧にも金が要る。

 金をどうやって得るか。金持ちから奪えばいい。


 まずは人間が暮らす街に向かった。
 行き交う人々は様々で様子を見ればなんとなく金持ちが判別できた。食べ物の判別が出来なかったのに金持ちの判別は出来たのは、喜んでいいのか悲しむべきなのか。

 試しに、ベンチに腰掛ける金持ちそうな中年男に近寄った。隣に座る。


「こんにちは。こんな天気のいい日に読書ではなく仕事ですか?」

「…え?」

「あ…ごめんなさい。熱心に書いてらしたから…思わず紙を見たら、字が好みだったので。…お邪魔しちゃいました?」

「ああいいんだ。字が好みで声をかけるとは珍しい」

「よく言われます。私、絵に好みがあるように字に好みがあるんです。」

「私の字がそんなに好みかね?」

「はい。字って人柄も出ますよね」

「それは褒めてるのかい?」

「思った事を言っただけですよ」

「面白い子だね。これから昼食をとろうと思ってたんだが、一緒にどうかね?君に興味をもったよ。」

「嬉しいです。あ、お仕事は大丈夫ですか?」

「ああ、急ぎでもないし、今日は休日だ。」

「まあ。お休みの日まで熱心ですね」

「今日はたまたまだ。普段はしない。」

「では私はラッキーでしたね。いつも通りだったら字が見れなかったですものね?」

「そうだね。私も君に会えたからラッキーだ。」

「ふふ。嬉しい。」

「じゃあ行くかい?」

「あ…でも私、今日散歩で来ただけだからお金持ってないんです。」

「気にしないで。最初からごちそうさせてもらうつもりだったから。」

「なんか…申し訳ないです。」

「ここは私の顔を立てると思って、ね?」

「…では…ありがとうございます。」


 驚いた。こんな上手くいくとは。
 上手くすればこいつから金をもぎ取れる。

 笑顔の裏でそんな計算をしながら男について行った。
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