ピエロの成り方



ミッション

「さあ、好きなものを選んで。」

「ありがとうございます。」

 連れてこられたのは高そうな装飾が施された店。自分の目利きの正確さに驚いた。そして、自分にはここでのミッションが大きく三つある。

 一つはこいつの素性をつかむこと。それにより、これからの金の引き出し方が変わってくるからだ。そして、素性によっては関わってはいけない場合もある。

 二つ目は周りの客をよく見て顔を覚えること。ここは高級店。こんなところにいる奴は金持ちだ。考えなくてもわかる。顔を覚えておいて損はないだろう。

 三つ目は単純なこと。周りの客の皿だ。今自分には食べ物の知識がない。食べ物の判別ができるように食べ物の種類を一つでも多く見ておく必要がある。

 メニューを見る。字は読めなかったが、幸いいくつか写真が載っている。この写真の中から選ぼう。

 …しかし、なんだろう。数枚の写真のうち、一枚の料理に対してものすごく見てるだけ手吐き気をもよおす。見た目は他の料理と大きな差はないのに。とりあえず、その写真以外から選び、指差して

「これ美味しそう…」

 控え目に言ってみる。

「ビーフの香味焼きだね。私はどうしようかねえ。このチキンか…」

 チキンと言いながら吐き気をもよおす写真を指差す。

「ハンバーグかなー」

 次にもう一枚を指差した。
 写真見るだけで吐き気がするのに実際に見たら確実に吐く。

「私的には、はっハンバーグが、美味しそうです!」

「そうかい?じゃあハンバーグにしようかな」

 と言って、注文をした。危なかった。どうにか吐かずに済みそうだ。

 この、写真だけで吐き気がしたチキンは鳥で、自分(鷹)を表すことを後から知った。吐き気がしたのは当然と言えば当然だ。


「ところで、君の名前を聞いてなかったね。なんて言うんだい?」

 まずい。名前なんて考えてなかった。そうか。人間にはみんな名前が付いているのを忘れていた。今までは鷹としか呼ばれてなかったから。

「エレンです」

 とっさに出たのはあのサーカスの団員だった女の名前。あんなサーカス団大嫌いだけど、エレンには少し感謝した瞬間だった。

「綺麗な名前だね」

「あなたのお名前は?」

「バルトロだ」

「素敵なお名前ですね。趣味はなんですか?」

「芸術鑑賞かな」

「へー!私も芸術興味あるんです!でもまだ全然知らなくて」

「おお!奇遇だね!すごく好きな画家がいるからその画家の絵をぜひ見てもらいたいよ!」

「バルトロさんのお好きな画家ですか?見てみたいですー」
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