ピエロの成り方



危機

 家政婦として居候を始めて3週間程。
 夜、寝室で電気を消して窓から外を眺めていた。毎日の日課だった。自分はこの間まで鷹だった。湖に落ちて死ぬはずだったのに何故か、助かって人になっていた。鷹のまま助かっていたとしてもどうせそのまま餓死していただろうから一番良かったのだろうけど、空を見る度に空が懐かしくなる。自分の羽根で飛んでいたときを思い出す。飛んでいる感覚は思い出すのに飛べない。自分は一体何なんだろうとわからなくなる。そんな答えが出ない疑問を毎日星空を見ながら考えていた。
 明日もあの男は仕事で、朝ご飯を用意しなければいけない。そろそろ寝ようと、ベッドに入ったとき、キイ、と小さく音を立てて入ってきたのはまさにあの男。

「…ん?バルトロさん?」

「……」

 男は無言で近づいてくる。本能的に察知した。いつもとは違うと。

「明日もお仕事なのに、寝ないと…」

 敢えて、いつもと違うことに気付いていないように振る舞った。

「エレン…」

「はい?どうしました?」

 いつも通り笑顔で返す。変な雰囲気には持って行かせない。

「…どうして、私が寝ていない事がわかったんですか?もしかして、毎日明りを消した後、しばらく起きていたことも知っていましたか?」

「…ああ、どうしたのかと思ってね。」

「心配をかけてしまっていたんですね。すみません。」

 無言で更に近づき、ベッドに座り顔を寄せて来た。

「私、身内を失って、家を失って一人でいた時、知らない男の人に襲われそうになったんです。」

「え?」

 男とは目を合わせずに視線だけ落として話す。
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