ピエロの成り方



防戦

「その日はなかなか遅くまで宿が見つからなかったんです。もう辺りは真っ暗で、でも宿はどこも満室で。焦っていました。そこは治安が良くないと聞いていたから。
いくつ目か、宿で満室を理由に断られて外に出て次の宿を探そうと歩いていた時、いきなり腕を引かれて抵抗する間もなく道沿いの空き地で馬乗りされました。視界には3人見えました。暗かったのでもしかしたら他にも居たのかもしれません。口を塞がれて、手足を押さえられて助けも呼べませんでした。
そのとき、「何してるんだ」と声がしました。男たちは邪魔だからやっちまおうみたいなことを言ってたんですが、「警察だが。」とさっきの声がまたしました。男たちは驚いて私を置いて逃げて行きました。
警察と名乗った男性は私に少し近づいて、「何かありましたか?」と聞いてきました。私が宿を探していたことを言うと、男性は紙に何かを書いて私に見える位置に置きました。「この紙に書いたところに行ってみてください。あまり有名じゃなくて、地元の人しか知らないような宿ですから。」と言いました。私が戸惑っていると、「夜道ですから周りに気をつけながら行ってくださいね」と言って去って行きました。
そのときは何故紙を置いたのか分からなかったのですが、今思えば、怖い目にあった直後だから私に気遣って接触しなかったのだと思います。でも、そのせいで、その人の服は見えなかったので本当にその人が警察だったのかもわかりません。
その紙には宿の名前とそこからの行き方が書かれていました。そして無事その宿に泊まれました。
そのときの紙に書かれていた字が…バルトロさんの字に似ていたんです。」

「え?」

「一人でいつも孤独を感じて不安だったんです。でもあのとき、偶然バルトロさんの字を見て安心できたんです。それで、思わず声をかけたんです。」

「そうだったのか…」

「だから、私バルトロさんには安心して接することができるんです。怖い事をしない人って信じられるから…」

「うん…」

「いきなり、変なこと言い出してすみません。バルトロさんは、どうしたんですか?」

「…」

「あ、いつもなかなか寝ないから心配して来てくれたんですよね!やっぱり夜になるとたまにあの時の事を思い出しちゃってなかなか寝付けないときがあるんです。でもバルトロさんに話せて今ちょっと整理できました。寝なきゃなのに大切な時間取っちゃってすみませんでした。もう大丈夫です。今日はすぐ寝付けそうです。」

「そ、そうかい?じゃあ…私は寝室に戻ろう。」

「はい。おやすみなさいませ。」

 男は部屋から出て行った。
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