ピエロの成り方



男の過去

 秘書として、仕事を学び、人間の生活を知った。働いているのだからと、給料というものをもらった。本当に望んでいるのはこんなちっぽけな金額ではないのだが、貰えるものは貰っておく。

 男は自分の家族について語りたがらなかったが、一カ月が経ったころ、思い切って聞いてみた。こんなところでいつまでも時間を潰してる場合じゃないんだ。

 すると、男は気が進まなそうに話した。

 もともと男は今の会社の社長の息子だった。結婚は親が決めた人とした訳だが、お互い、一緒に暮らすうちに惹かれて周りからも羨まれるようなおしどり夫婦だったそう。だが、子どもがなかなか出来なかった。二人とも子どもをとても欲しがったが結局授かることはなかった。二人で生きていこうと決意した矢先、妻が病気を患った。脳の病気だそうで、進行するにつれて身体の機能が奪われ、記憶も消えていった。最期のときまで男のことだけは覚えていた。医者もそれには驚いた。全ての物事を忘れても男の事は覚えていた。そして、その最期の瞬間、男が泣きながら手を握りしめていた。その男を見て笑顔で

「あかちゃんと公園へお散歩に行きたいわ」

と言って目を閉じた。

 それ以来はずっと一人で会社を継ぎ、生きてきたそうだ。

 そして、最後に、妻が私にエレンという子どもを与えてくれたのかなってたまに思うんだ。

 といった。
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