身体が熱いのか冷たいのか解らない。不快感を纏うローブを引き摺りながら、寝室を出て二階の窓を閉めていく。杖を一振りし、念入りに施錠する。
階段を降りて居間に出ると、書斎からランプの灯が漏れていた。一昨晩そこで倒れてベッドに向かってから、ずっと点けっ放しで居たのだろう。

『父さん』

…シリウスの声がしたような気がして、思わず口角が上がった。幻聴なのか、思い込みが脳に植え付けているものなのかは知る由も無いが、それでも今彼の声を聞けたのは嬉しかった。
がんがんと痛む頭部が相俟って、妙に気分が高揚する。

「…シリウ、ス」

返答はない。けれど名を呼ぶだけで何だか幸せな気分になった。
ホグワーツへ飛ばした梟は無事手紙をダンブルドアに届けただろうか。書斎のデスク上にある置き時計は、午後二時をさしていた。
シリウスは、今年学校で過ごす最後の休日を友人たちと謳歌しているだろう。明日が日曜、そして授業が月火と入り、二十四日の水曜は午前で切り上げて帰省する。

(…迎えに行ければ、いいんだけどなぁ)

三か月弱顔を合わせていない。シリウスは五年生だ。出て行く時は同じだった身長も、きっと抜かれてしまっているだろう。
彼からの手紙によれば、親友であるジェームズ君に彼女ができたり、来年はクィディッチのメインメンバーになれる予定なのだそうだ。

(よし…此所はいい)

吹雪で雪が打ち付ける窓に呪文を掛け、入口のドアの横の写真に目を遣る。

笑顔で赤ん坊のシリウスを抱くマリアと、彼女の肩を持つ両親。僕は四人の少し横で、曖昧に笑っている。マリアに呼ばれて近付いて、シリウスの頬をくすぐると、彼が不意に泣き出した。

「――、お腹減った…」

緩む頬を隠さずに書斎を出、リビングのソファに身体を預けた。毛布をアクシオ呪文で呼び寄せてくるまりながら、何の気なしにテレビを点けた。

――人狼対策法、更に厳格化

熱のせいで揺らぐ視界に泳ぐテロップ。きんきんした声の女性が、アナウンサーと討論しているようだった。

『ェヘン!ですからね、人狼は危険極まりない魔法生物なのです』
『彼らは満月の晩以外はわたしたち人間と何も変わらないと主張する人も居ますが…』
『いいえ、普段は人間の皮を被っていても、奴等は野蛮で獰猛な牙と爪を隠し持っているのです!』
『そこで新しく制定されるこの法律ですが、こちらはMs.アンブリッジが考案なさ』

リモコンの電源ボタンを乱暴に押し、肩に毛布を巻き付けて立ち上がる。少しだけすっきりした頭をもたげて、台所に立った。
玄関の呼び鈴がなったのは、数分後のことだった。





090816
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