「シリウス、ダンブルドア先生が呼んでる」
「……校長が?」
「急ぎの用事だそうだ。早めに行けよ」
「どうも」

二つ上の監督生が談話室に入るなりそう言った。ソファに踏ん反り返って日刊預言者新聞を読んでいた俺は、組んだ脚を下ろして立ち上がる。
隣のソファでくつろいでいたジェームズが目線を向けて来た。

「へまでもしたか?」
「いや、心当たりがねぇ」
「ついてくよ」
「ああ」

早足で廊下を渡り、移動階段を降りた。時折ジェームズが冗談を零しつつ、俺たちは校長室に到着した。

「ピティキャンディ!」
「ばっか、くらくらクラッカーだろ」
「開かないじゃないか」
「、ローズキャラメル」
「バタービールガム」
「…それ不味かったやつ?」
「そうさ。マダムロスメルタが憤慨してたよ。うちのビールが売れなくなるってね」
「つか開かねぇ」
「校長ー!」
「…るせぇよ馬鹿」
「実力行使だっ」
「絶対開かないぞ」
「ドアノブが引っ込んだ!」

ぎゃーぎゃードアと格闘するジェームズを見ていたら、不意に肩に誰かの手が乗った。瞬間体が強張ったが、すぐに緊張が解ける。
振り返ると、眉尻を下げて笑うダンブルドアが立っていた。

「先生」
「先生?…ああ!校長、すみませんドアノブが引っ込んでしまいました」
「ほっほ、ふたりとも元気で何よりじゃ。さて…」

ダンブルドアが俺を見据える。俺のすべてを見透かしてしまいそうな、このきらきらした瞳が少しだけ怖い。
彼の目は父さんの目に似ている。

「残念ながら良い話では無いのじゃ」
「何の話ですか?」
「君のお父さんの話での。…ジェームズはどうするかね?」
「あ、此所で待ってます」
「そうか。すまんのう」
「いえ」
「ではシリウス、お入り」
「はい」

顔の横で指をぱたぱたさせ俺とダンブルドアを見送ったジェームズは口元こそ笑っていたが、双眸は真剣そのものだった。あいつなりに心配しているのだろう。
緩い傾斜の階段を上りながら、ダンブルドアの背を見遣る。父さんがどうかしたのだろうか。次の満月は俺がクリスマス休暇で戻る八日間のうちの二日目の筈だ。

「お座り」
「はい」
「何か飲むかね?」
「結構です、それより」
「…そうじゃな」

円形の室内に飾られている歴代の校長たちはダンブルドアの真後ろの額に集まり、何やら話をしていた。

「今し方速達でこんなものが届いての」
「?」

ダンブルドアは一枚の便箋をひらりと取り出した。テーブルに置いて差し出してくれたので、俺はそれを手に取り開く。
弱々しい筆跡。けれどすぐに父さんの字だと気付いた。

「……どうやら君には何も伝えたくないようじゃったが、たったひとりの肉親である君に事実を知らせずこの城に留まれというのは酷だと思っての」

手紙には要約するとこんなことが書いてあった。
風邪をこじらせて数日ベッドに臥しており、次の分の人狼薬を煎じていないこと。
都合がつけばホグワーツの教授に薬の精製をお願いしたいこと。それが無理であれば、家中の窓やドアには魔法を掛けておくので、シリウスをホグワーツに預けておきたいこと。
一通り咀嚼した後で、顔を上げダンブルドアを見る。

「下の方に、ドラゴンの鱗が無いだけで、こちらに材料はすべてあると書いてあるのじゃが、今ドラゴンの鱗はどこも品枯れが続いておる」
「冬だからですか」
「そうじゃ。この時期ドラゴンは子供を寒さから守るため巣に籠りきりなのじゃ」
「では次の満月は――」
「狼化は避けられん。君の安全を確保してくれとの頼みじゃ。心配じゃろうが、クリスマス休暇は三日目に帰省して欲しい」
「…わかりました」
「ポピーが先刻向かったから、風邪は何とかなるじゃろう。しかし弱った体で狼化に耐えられるか、少し気にかかる」
「…」
「じゃがどうすることも出来んのじゃ。前日にはわしも君の家に魔法を掛けて来ようと考えておるがのう」
「ありがとう、ございます」
「解ってくれるかの。…リーマスを信じてやりなさい」
「はい」
「ではお開きじゃ。ジェームズによろしくの」
「失礼します」

頭に乗せられたダンブルドアのあたたかな手のひらに、また父さんを思い出した。





090816
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