マグルの電車を乗り継いでキングズクロス駅に向かう。
同行者は大切な一人息子だ。煙突飛行は未だ苦手だそうだし、姿現わし術は僕ひとりの移動ならお手の物だが誰かを連れて行くとなると相当な技術が要る。失敗してシリウスに何かあったらと考えるだけで胃に穴が開きそうになるので、二人で外出する際はいつも多少の面倒を被る。
『9と4分の3番線は嫌いだ。父さんと離れなきゃいけないから』
制服がようやく体に馴染んだ二年目の秋、カートを押しながらそう言ったシリウス。
亡き妻に似た柔らかな黒髪を撫でて笑った。
『僕は好きだよ。クリスマスやイースター、学期間休業の度に、大きくなって帰って来るお前を見れるからね』
機嫌を損ねてしまったのか、シリウスは何も返さずに俯いて、特急に乗り込んだ。汽笛が上がり、コンパートメントの窓を全開にして身を乗り出す子供たち。手を振る見送りの大人たち。
『いってらっしゃいシリウス、元気でね』
乗車口が閉まり、列車が出発する。ちらりと向けられたあのきれいな双眸は、笑う僕を捉えただろうか。
特急が見えなくなってから、続々と姿を消す周囲の人々。着実に成長していくであろうかわいい彼の前途を祈りながら、僕もバシッ!と音を立て駅を後にした。
090816