零下十度を下回っても、今日はホグズミードに行くことのできる土曜日である。刺すような寒さも何のその、三年生以上の生徒達がホグワーツからホグズミードへ向かう列車は満員で出発した。
ルーナは図書館に向かうその足でそれを見送った後、吹き抜けの寒い廊下を移動し早歩きをしていた。

「ルーナ!」
「?」

名を呼ばれ振り返ると、そこにはマスクを掛けた上級生が立っていた。目と髪、そして身長から察するに彼はハッフルパフ寮のセドリック・ディゴリーだろう、とルーナは思った。
しかし平生とはなにかが違っている。なんだろう、どこが違うのかしら。考えるうちに顔に出たらしい、ディゴリーが吹き出した。

「――はは、ごめん、ごめんね」
「いいえ。それじゃ」
「あ、ちょっと」
「なにか?」

ディゴリーに肩を掴まれて、ルーナはようやく異変に気付いた。前もこうして話し掛けられ去ろうとしたわたしへ――、

「今日は、その」
「…」
「こないだは悪かった。皆本当はいい奴なんだけど、」
「気にしてないよ」

――気違いルーニーと話したら脳が溶けるぜ
――セド!そんな子かまってどうするの
――また靴がないのか?とんだ目立ちたがり屋だな

反論しなかったのは、眠くて面倒だったから。ディゴリーが彼らを睨んでいるのをみて、もういいやと思ったから。
今日は人気者のディゴリーを囲うお友達がいないのだ。

「今度謝らせるから」
「そんなのいいよ」
「でも、」
「気違いなのは本当だし、まあ靴が無くなるのは不本意だけど、キラキラしてるあんたがわたしに構っても得るものなんか無いもん。正論だよ」

ルーナは言ってからディゴリーの顔を見上げた。そして固まった。ディゴリーは目を見開いて、マスクの上から口許を押さえていた。いったい何に?まさかわたしに?ルーナもまた彼を見て目を見開く。

「君、」

先に口を利けたのはディゴリーの方だった。

「自分のこと、どう思ってるの」
「……どうって」
「まさか、言われたままに、言われることはぜんぶそうだなって思ってるの?」
「そんなわけ、」

いつも顔を隠すマフラーがないことを恨めしく思いながら、言い返そうとルーナが顔を上げたときだった。

「「おやおや」」
「!」
「取り巻きはどうしたのかな」
「ディゴリーくん」

同じ顔がふたつ、ディゴリーの肩に乗っていた。ルーナは訳が解らず、向かって右、ジョージを見た。

「やあルーナ、どーっちだ」
「当たったら良いものをあげるよ」
「…ジョージ」
「正解!」
「これでラブグッド選手は二十五勝です。負け無しの快進撃!」
「さてゲストのウィーズリーさん、この結果をどう思われますか?」
「そうですね、他者には成し得ない記録にツインズの家族も目ン玉吹っ飛ばしてるでしょうね!」

静かだった廊下が一気に色付いたように二人の声を反響させた。ルーナが突然現れた二人に唖然としたままのディゴリーを見たとき、フレッドがローブのポケットから何かを取り出して前に出た。

「僕らのお姫さまへ献上します」
「!」

フレッドがルーナの首に巻いたのは、ルーナが父親に貰った大事な大事な白いマフラーだった。

「"裏門の柵に結んで"ありましたので、我々がしっかりクリーニングも行いました」
「ありがとう」
「いいえとんでもございません!」
「お姫さまに喜んで頂けて大変嬉しく思います」
「それでは姫さま、図書館にエスコート致しますよ」
「あ、ちょっと」

両手を取られ、デジャヴな台詞で立ち止まる。未だ黙ったままのディゴリーへ、ルーナが口を開いたときだった。

「ディ「あいつらが、やったのか?」
「…はい?」
「そう言ったつもりだったけど、聞こえなかったみたいだね」
「あんたが命令したんじゃないの?潔白そうなカオして」
「…まさか」
「どうだか。優等生は何考えてるか解ったもんじゃない」
「やめて」

ルーナは双子の手を振り払って言った。

「ディゴリーが言ってあの人たちがやったのか、あの人たちが自主的にやったのかなんてどうでもいい。ディゴリーがやってないならふたりが責める必要も無いでしょ。現にこれは返って来たし、べつに、」
「――物がなくなるので済まなくなったら?」

ルーナはフレッドを見上げたが、彼の表情は解らなかった。
フレッドが続ける。

「僕は心配なんだよ。今は物で済むけど、いつか複数でルーナを囲んだら?」
「フレッド、」
「ジョージもだろ。…僕らが関わることでルーナの危険が増えるのは解ってるけど、でも心配なんだ」

とってもね、と言ってまたルーナの手を引いたフレッドが、一部始終を見ていたディゴリーを一瞥して歩き出す。

「じゃ、」
「…」

ジョージは俯いたディゴリーの拳を見て頭を掻いたあと、二人に続いた。



握られた拳の意味





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