「…なあ」


びくり、揺れた肩を見つめる。リーマスは鍋の火を止め、俯いたまま「なんだい、」と呟いた。

信じて待つことが出来なかった僕は彼に許される資格などないのだ、とリーマスは言ったらしい。
ルーナからそう聞いたとき、俺は階下の彼を問い詰めようと立ち上がりかけたが、少女はラグに座ったまま緩慢に俺を見上げ、『先生はシリウスが思うほど器用じゃないよ』と言った。

お前に非はないんだと――そう言えば良いのか。数か月前叫びの屋敷で緊急事態にも関わらず会話ができたことは奇跡に近いものがあったのではないか、とすら思う。


「…怒ってるのか?」


訊くまでもないこと。あの日、信じられないほどの最悪が重なったあの日に、何も告げず隠れ家を飛び出したのは俺だ。挙句の果てに、当時俺はこいつを疑っていた。
恋人だなんて甘い関係ではなかったし、はじまりが何時だったのかさえ明確に思い出すことは出来ないけれど、彼が大事だったことだけは確かだ。
俺の疑心が、それがリーマスに伝わることをただ恐れて。そして彼に距離を置いたのだった。


「怒ってないよ」


リーマスは嘘を吐いた。相変わらず俺に背を向けている。
これが拒絶を示すものなのか、それとは別の感情を表すものなのかは解らない。
触れられたらいいのに、と思ったが、それには俺の手は汚れ過ぎている。リーマスに与えられるものなど、俺はひとつも持ち合わせていないのだ。

沈黙が満ちて、俺はいたたまれなくなる。リーマスがエプロンを外そうと後ろ手に紐を解き始めたとき、キッチンにぱたぱたと足音が近付いて来た。
温和しいブロンドの髪が揺れる。銀色の瞳が俺を見上げた。


「シリウス、ダンブルドアが呼んでるよ」
「、そうか」
「先生、お手伝いするね」
「有り難う」


ルーナが髪をひとつにまとめ、手付かずの野菜を水道で洗い始める。
去り際、右に立つルーナへ微笑み掛けるリーマスに、酷く心臓のあたりが痛んだ。





091002
title:けしからん
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