かわいいあの子







「○、○?」
「…、ごめん、」
「どうかした?難しい顔して」
「何でもない」
「あ、そ」

気付くと授業が終わっていた。担任はもう教壇に居らず、教室はポケモンをボールから出す生徒や、放課後の講習に向け机に齧り付いている生徒、はたまた掃除用具を手に歩き始める生徒などで、すっかり色が変わっている。
(授業中はあんなに色褪せて、いや、統一化されているのに。)

「帰る?」

話し掛けて来たのは友人のエミである。

「あ、図書室行く」
「またあ?あんたいつか虫になるよ」
「もうなってる」

はいはい、と言いながら鞄の中のボールを引っ掴みポケモンを出す彼女。ボブショートの髪が揺れる。現れたのはコリンクだった。彼女がライチュウ以外のポケモンを連れ歩くのは初めてのことである。

「女の子?」
「うん。昨日捕まえたの」
「ライチュウは?留守番?」
「今日家に親戚が来るんだって。――オーブンとアイロンとIHヒーターとテレビと客間のランプ、ああ、ブレーカーが落ちちゃうわ!…って」
「お疲れさまだねえ」
「本当だよ。あんなに電気くれるライチュウいないよ」

エミママのモノマネに笑いながら、エミのライチュウ(、男の子)に心の中で手を合わせた。きっと今ごろエミに会いたくて会いたくて堪らなくなっているだろう。

「あ、そういえば」
「?」
「昨日喋ったよ、ライチュウ」
「え、凄いね」

エミはあまりポケモンを捕まえないタイプだから、いつも連れているライチュウと、短距離移動用に借りているらしいオニドリルくん(鳥使いの資格がないと自分の飛行ポケモンでは飛べないのだ)と、半年前の誕生日にエミパパから引き受けたヒトカゲくん、そして新入りのコリンクちゃんしか持っていない。
中でもライチュウはエミが物心付く前からエミの家にいた子で、エミがライチュウの所有者になるため正式にトレーナー試験を受けたのは五歳と言っていたように記憶している。

「じゃあ早く帰った方がいいかもね」
「何で?」
「喋り始めって、その子不安定になるって」

グリーンが言ってたよ、と口にしかけてやめた。するとエミが吹き出す。

「ふふっ、やだなあ、まだあたしの名前呼ぶだけだよ」
「そうなんだ」
「うん。早く何言ってるか知りたいんだけど」
「あの子はエミにベッタリだもんね」

うん、と笑うエミがあまりに可愛いので、やっぱり先に帰るよう言って教室から押し出した。わたしもクラスメイトにばいばいを言って、階上の図書室に向かう。
足取りが軽くなって、リズムよく階段を上がったら、何だかぽかぽかした気持ちで胸が一杯になった。





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