砂嵐に誘われて



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 サーとはとある商会のレセプションパーティーで出会った。彼は、私からすればとても大きい体躯をしており、渋さを醸し出す容姿をしておりあの会場の視線を偏に集めていた。あまり深い関係にならないと噂の彼からは嫌われてはいない、むしろ好かれていると思う。というのも、彼が私の事業内容の海上運送に目をつけたのかそれとも私自身に興味をいだいたのかは分からないが、あのパーティーで挨拶を交わした日から何かと理由をつけられ2週間に1回、もしくは1週間に一度は食事に誘われ仕事中の会社から連れ出されているからだ。正直に言えば気分が乗らず、誘われることが億劫になることも無くはない。しかし、不思議なことに重要な仕事が控えてる時は不思議とお誘いが来ないため、仕事を理由に断りきることもできずにいる。それに、サーは商売を得意にしているが、七武海……海賊の立場だ。逆らったら武力行使、経済制裁からはじまり何をされるのか未知数で誘いを無下にすることもできなかった結果毎回彼からの誘いに乗る形となっている。そんな気持ちもサーと食事をすれば消え、帰路につく頃には楽しい気持ちが残っているのだからサーの接待の力量が見て取れる。これまで交流を重ねて来たが、なんで彼がここまで私に固執しているのかが分からず悶々としている。そもそも海賊なのにビジネスに幅を効かせているのも理解が及ばない。

 食事に誘われた回数が片手では数え切れなくなった時、『社長ビックカップル誕生』の見出しのもと、ある社長との会食を密会として新聞にスクープされてしまった。知らせとともに新聞が手元に届いた際にはつい頭を抱えてしまった。スクープされた彼とは写真を撮られたときが初めての食事であったし、写真に添えられている『腰を抱き、仲睦まじい様子が見て取れる』とあるが、エスコートを受けているだけである。最近の会食は、もっぱらサーとであり、彼といるときはパパラッチが少なく、油断していたのが運の尽き出会った。思い返してみれば、サーと食事をするときはパパラッチの姿が一切見られなかった。七武海の彼との会食なんて格好のターゲットであるはずなのに、いなかったのはなぜだろうか。悶々と一人考えていれば、彼の権威に守られていたのではないかという結論に至る。彼がここまで気を回してくれるのは、それほどまでに私の商売に価値があるのだろうか。そんなことに思考を巡らせていると、電伝虫が着信を知らせてくる。電伝虫の表情は固く険しいもので、一瞬でサーからの着信であることがわかり思わず笑ってしまう。彼の表情が柔らかいことはあるのだろうか。受話器を取り、耳に当て口を開く。

「はい、もしもし」
「俺だが、」
「……どうしました?」
「食事のお誘いだ。」

 当然のように彼から誘われ、言葉がつまる。彼との食事は嫌いじゃなく、むしろ楽しささえ覚えている。しかし、彼の行動が読みきれず、スクープも撮られた今出かけるのが億劫だ。断ろうと思い口を開こうとすれば、少し開けていた背後の窓から突風が吹き込み、目の前に砂嵐が広がる。突然眼の前へ広がった砂が目に入らないように目を閉じる。風が収まり、こわごわと目を開く。先程砂が広がっていた場所に立っているのは、先程まで通話をしていた相手。表情を見ると、気怠げな表情を浮かべており本当に私と食事に行きたいのかという疑問さえ浮かんでしまう。

「こ、こんばんは?」
「今晩は、お嬢さん。」
「どうしてここに?」
「お迎えに上がったほうが早いかと思ってな」

 とりあえず、挨拶を交わし疑問を問いかければすぐに答えが返ってくる。まるで私が食事の誘いを断らない前提の行動に驚く。ここまで来てもらって申し訳ないが、スクープを撮られた今食事に行く気分ではなく断ろうと開いた口からは素っ頓狂な声が漏れた。

「うぇっ?」
「黙ってろ、舌噛むぞ」

 砂になった彼の腕に持ち上げられ、背後にあった窓から星が広がる空へと飛び出した。胸に押し付けられていた腕の力が少しだけ緩み、興味本位でおそるおそる下を覗けけば、広がる景色に自らが置かれている高さを知り、慌てて彼の胸へと縋り付く。そんな一連の流れを彼は楽しんでいるようで、頭上からふっと笑う気配がした。気持ちいい夜風に吹かれ、数十分空を漂った後に路地裏の地面へとゆっくり降ろされる。着の身着のまま連れてこられたため、夜風にさらされた身体はすっかり冷え切ってしまい自らで温めるように腕を擦れば、静かに彼の上着が肩にかけられる。

「それでも着ていろ」
「……なんでここまで私にして下さるんです?」
「……」

 ありがたくかけられた上着を羽織り、彼の渋めの香水と葉巻の匂いが混じりあうサーの匂いに包まれる。冷えた指先を擦り合わせ温める。目の前に立つサーが私の手を両手を掴み、口元まで掬い上げ口付けを落とした。手に彼の温かい吐息を感じていると、サーが口を開いた。

「お前にもいい加減俺の気持ちが伝わって欲しいんだがな」

 その台詞に、彼の行動の心理を理解する。どうやら、サーが私を食事に誘ってきていたのは商売だけでなく私自身を気に入り、買ってくれていたかららしい。私の事を手に入れたいのなら、態度ではなく言葉で示してほしい。

「……気持ちははっきり言ってもらわないと分からないわ」

 そうか、と呟いた彼が私の耳元に顔を近づけ、口を開いた。

「――――――――。」




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