1,蛇に囚われる



Name Change

 先程までの船内に響いていた喧騒は夜が更けるとともに、収まり夜特有の静けさを取り戻していた。月明かりが差し込む決して広くはない部屋で私とスネイクさんの影は静かに重なった。リップ音を響かせながら唇を啄むように触れるだけの簡単なキス。軽いキスを数回繰り返せば、段々と間隔が狭まり一回のキスが長くなり上手く呼吸を紡げなくなる。自らの限界を訴えるように彼の鍛え上げられた肉体を叩けば、スネイクさんはその合図に気づき唇が離れていく。交わったことで湿った唇が冷え、彼が離れていったことを実感しながら、新鮮な空気を吸い込んでいれば頭上に彼の大きな右手が置かれさらさらと髪の毛を梳くように撫でられる。優しさを感じる感触に目を細めていれば、スネイクさんが口を開いた。

「少し無理させたな」

 そう言うと彼は後頭部を撫でていた手を止めるとその手にぐっと力を入れ、上を向かされる。撫でられ、乱れた前髪を彼は左手の親指でそっと端に避け、むき出しとなった額に口づけが落とされる。今度はすぐに唇が離れ、再び右手で頭を撫でられる。左手で垂れていた髪の毛を右耳にかけられ、彼の口が耳元へと寄せられる。

「また明日も頑張ろうな」

 耳元でそう言葉をこぼした彼は、今しがた交わした接吻を思い出し恥ずかしがる私を見て幸せそうに微笑んでいた。

 ――――――――――

 キスでたじろいでしまう私であるが、たまたま赤髪海賊団に拾われてから戦闘員として従事している。海賊だが気前が良く仲間を大切にする、この海賊団に拾われたのは荒れ果てた海では酷く幸運であったと言える。私以外に女がいないこの海賊団に所属し続けられているのは、加入時が早く古参の部類に入ってきていること、女ではあるが幸い闘うことが苦手ではなくむしろ得意であったことが要因として挙げられるだろう。
 しかし自分としては闘うことは、嫌いではないが知識を吸収することのほうが好きだった。なので普段は戦闘員としてというよりは、ベックさん……副船長と航海士であるスネイクさんのお手伝いが主な仕事であった。自由を求め闘う輩が苦手な書類仕事を引き受けるのは船にとって大変都合が良かった。副船長とスネイクさんと関わる中で、なんとなく纏う空気が心地よくスネイクさんに心惹かれるのは時間の問題であった。
 戦闘では、迷いなく武器を振り回せる私は恋愛においては奥手であり、自らの胸に芽生える気持ちにはすぐに自覚していたがスネイクさんに伝えることができなかった。同じ船に乗り生活する仲で、気持ちを伝えることは船内に不和をもたらすきっかけになりかねない。せっかく得ることができた私の居場所を失いたくなかった。そんな奥手な私の気持ちは上手く隠せていると思っていたのに、スネイクさんと同じぐらい関わっていたベックさんには筒抜け、食堂や宴でしか合わないヤソップさんにもバレていてしまっていた。事あるごとに揶揄され、古参の面子には私の気持ちはすっかりバレてしまっていた。それでもスネイクさんにはバレておらず、彼が鈍感であったことにほっと胸をなでおろしていた。

 事が動いたのはとある日の宴のこと。いつも通りばか騒ぎの宴で普段と違ったのは私が飲んだお酒の量である。お酒は美味しいし、一般人に比べては強いほうだろう。ザル揃いの仲間の中では弱い方で負けじと飲めば後悔するのは目に見えているため、普段は寝酒となる程度の一、二杯しか飲まない。しかし、この日は違った。どうやら最初に飲んだお酒が随分とアルコール度数が高いものだったらしく、すぐに酔いが回ってしまった。いつの間にか宴のときの定位置となっている隣のスネイクさんが酷く慌てていたのが印象的だった。スネイクさんに勧められる水をまだお酒を飲むんだと断りながら、酔いが回りふらつく体を安定させようと隣に座る彼へともたれかかる。頭上から驚いたような上擦った声が聞こえてきたが、何を言っていたのかまでは聞き取ることができなかった。襲ってきた眠気には逆らえず、聞き返そうと開いた口は音を発することなく閉じられた。

 肩を揺すられ、自分の名前を呼ばれる。いつの間にか落ちていた思考がゆったりと浮上する。薄く目を開けばそこには心配そうにこちらを見つめるスネイクさんがいた。なぜ寝ていたはずの視界に彼がいるのか理解できず、つい目に映るものを夢であると視認してしまった。お酒を飲みすぎて彼に介抱される私にとって都合の良い夢。夢にまでスネイクさんが出てくるなんて私はどれだけ彼の事が好きなのだろう。今なら……夢であれば胸に秘めるこの気持ちを出しても許されるだろうか。回らない頭でそう思い始めれば、開いた口は閉ざすことができなかった。

「……スネイクさんが好きで、好きでどうしようもなくて、どうすればいいと思いますか」
「……そうだな――――」

 私の突拍子もない質問に対する彼からの返事は最後まで聞くことができないまま意識は遠くへと落ちていった。

 ――――――――――

 頭のまわりに締めつけられるような痛みを覚え、うっすら霞がかった意識が浮上する。いつもの寝台とは違う寝心地に、瞬きを繰り返し思考を取り戻す。ふと、紫がかった色が視界に入り目を見開き体が飛び起きる。なぜスネイクさんが隣に寝ているのか、一体私は何をしたのかを頭を抑えながら考えていれば、私が起きた気配に気づいたのかスネイクさんの閉じていた瞳がゆっくり開かれる。彼は手を伸ばし寝台の脇に置かれていた眼鏡を取り、目にかけた。眼鏡越しに視線が合うといつものように優しく微笑まれた。理解が追いつかないが、ただただこの状況が恥ずかしくそっと視線を逸らす。痛む頭を抱えながら、昨日の宴を思い出す。お酒を飲んで寝てしまってそれから、自分に都合のいい夢を見たはずだ。都合の良い夢はやけに現実味のある夢で、気持ちを伝えた彼の驚いた表情、その時の空気、温度感をじわじわと思い出す。……もしかしたら、私が見ていた都合の良い夢は夢ではなかったのかもしれない。そう思い始めれば、冷や汗が背中を流れる。盗み見るように彼を見上げれば、スネイクさんは少しだけ困ったような表情を浮かべながら口を開いた。

「……どこまで覚えてる?」
「スネイクさんに口滑らしちゃったとこです……」
「なら、俺が言ったことは覚えてないのか」

 彼はそう言うと、大きな手を自らの顎に当てまぶたを伏せ少しだけ思案の表情を浮かべ考えること数秒。伏せていたまぶたを開けると口を開いた。

「好きだ」

 突然告げられた言葉に驚き、言葉にならない声をこぼす。戸惑い混乱し、口を開いたり閉じたりしている私を見て彼は面白いものを見たと面白そうに笑っている。少しも笑い事ではない状況に彼を鋭い視線を送るも、それさえも愛おしげに見つめられてしまえばもう私には何もできなかった。蛇に捉えられたかのように視線を逸らすことができず、お互い無言のまま見つめ合うこと数秒。近づいてきた顔に静かに瞳を伏せた。
 最初は触れるだけのキスだった。目まぐるしく与えられる初めての体験に恥ずかしさを覚え逃げるように顔をずらせば、逃さないとでも言うように頬を手で包まれ、与えられる接吻は段々と深くなっていった。固く結んでいたはずの唇は、空気を求め薄く開いた隙を突かれ長く分厚い舌の侵入を許してしまった。口内を自由に動き回る彼の舌の動きに応えるように舌を搦め合う。上顎を舌で撫でられ、体に入っていた力が抜け落ちる。互いを貪り合う音が微かに耳に響き渡る。噂には聞いていたキスする時の鼻呼吸を上手く行うことができず、意識が靄がかかったように白み、握っていた彼の上着を掴む手の力が緩んだ。
 そのまま意識を失った私が最後に見たものは、私の様子に気づいた彼の慌てる様子であった。

 ――――――――――

 目が覚め1番初めに、目に入ってきたのは見慣れない天井であった。ここはどこだと首を動かせば、椅子に座り作業台に向かうスネイクさんの後ろ姿が見えた。彼の後ろ姿を働かない頭で見つめると、次々に蘇る意識を失う前の記憶たちに意識が急浮上する。スネイクさんと唇を重ねて、彼に思うがままに貪られた感触を思い出し指先で口元を撫でる。彼と口付けを交わした実感がじわじわと湧き出て、頬に血が集まり、赤く染る感覚がする。一人騒がしくしている気配を感じたのか、スネイクさんが動かしていた手を止め首だけでこちらを振り向く。私が起きたことを確認した彼は優しげに微笑みを零し、椅子から立ち上がり寝台のすぐ側に立ったのを見て、慌てて体を起こし寝台に腰掛け両脚を床につけた。私に目線を合わせるように、スネイクさんは大きな身をかがめて私の頭の頂きに右手を起き、さわさわと頭を撫でる。手のひらから彼の体温を感じ、目を細め彼の動作を受け入れる。

「体調はどうだ?」
「……いきなり倒れちゃってごめんなさい。もう大丈夫です。」

 そう返せば、彼は申し訳なさそうに目尻を下げた。そして、頭の頂を撫でていた手を下にずらし、海の潮で傷んでしまっている髪の毛を梳くように後頭部を撫でつけながら「なら良かった」と言葉をぽつり零した。
 
「でも、ごめんな。つい無理させたな。」
 
 続けざまに耳へと届いた「あれくらいでへばっちうまうとは思わなかった」という発言に、島に降りても男と遊ぶことなく純潔を貫いてきた自らの経験の無さを悔いる。生きている年数が違うといえども、スネイクさんとの経験の差が浮き彫りになってしまい恥ずかしさが募る。彼はあの口付けの技量を、誰に学び自分のモノにしたのだろうか。酒場で見る芸を売る女性たちであろうか、それとも彼自身が惚れこんだ相手であろうか。海賊の男はかなり性に対して奔放だ。過去の女に嫉妬していたら終わりはないと分かっているはずなのに気にしてしまう自分が嫌になる。
 
「いえ、……慣れてなくてすいません、」
「……こちらとすれば好都合だけどな」

 ぼそっと呟かれた言葉を上手く聞き取ることができず「え?」と、スネイクさんに聞き返せば彼は細めていた目をなにか楽しそうなことを思いつたように丸く開き、立ち上がり私の方へと手を差し出した。差し出された手のひらに重ねるように自分の手を置けば、ぎゅっと手を握られ引っ張られる。その力に逆らうことなく、引かれるがままに立ち上がり彼の腕の中に身体を収めた。スネイクさんは、私を腕へと収めたあと耳元に口を寄せ「もう一度だけな」とみんなの前で話す時よりも低く落ち着いた声で言った。何がもう一度なんだろうか、もう一度言ってくれるってことかなと思考を回していた。しばらく、私の髪の毛の感触を味わっていスネイクさんは胸元に押し付けていた私の顎を掬い上げ、目線が絡めば口を開いた。

「こちらとすれば、慣れてない方が好都合だって言ったんだ。」
「……俺色に教え込むことができるからな」

 補足の説明まで施してくれた彼は、長い舌で自らの唇を舐めずっている。その口許に視線を奪われ、まともにスネイクさんの顔を直視できない。恥ずかしくて視線を落としていれば、こちらを見ろというかのように額にキスを落とされる。ちゅっ、ちゅっと音を立てながら繰り返し額に唇を落とされ、彼に誘われる様に顔を上げる。視線が搦め合えば、やっとこっちを見たなと満足気な表情を浮かべている。

「慣れてくれないと困るから慣れるまで練習しような」
「練習……ですか?」
「そう、俺とキスしても倒れないようにキスの練習だな」

 さっきまで撫でていた手は逆手の左手で頭を撫でられ、天辺から後頭部に手のひらが移動し、唇が重ねやすい様に少しだけ上を向かされる。初めて交わした口付けよりも軽い口付けは、口内を彼の舌が動き回ることもなく唇をただ重ねるだけであった。彼に頭を強く引き寄せられより上を向かされる。唇の上に重なる彼の上唇と下唇の間から唾液が重力に従い垂れ、私の唇を濡らす。長いような短いような間唇を重ねるだけのキスを交わしていれば、なれない鼻呼吸に少しだけ呼吸が苦しくなる。口と鼻で行う呼吸よりも鼻呼吸のみだと得られる空気は少なく、呼吸が荒くなりスネイクさんに鼻息がかかってしまうのが恥ずかしくて、なんてことないように唇を重ね続ける。スネイクさんはそんな私の様子を見兼ねたのか、リップ音を立てて唇を離す。彼は後頭部にやった手で頭を撫でながら、額を合わせ呼吸が乱れている私に声をかける。

「呼吸は鼻呼吸でな。」
「俺に鼻息がかかる、なんてことは気にするな」

 スネイクさんからのアドバイスに頷けば、彼に頭を撫でられながら再び上を向かされる。近づいて来る唇に瞼を閉じ、彼からの口付けを待つ。小さく息を吸う気配の後に唇を塞がれ、再び鼻で空気を得ようと呼吸をする。先程の口付けの時間を越すと、いったような所で今まで大人しくしていた彼の後頭部に左手が動き始める。ただ手遊びで撫でるのではなく、頭から私に刺激を与えるように動く手に意識が乱れる。彼の太く長い指が頭皮をばらばらに優しく這っていた。私の頭でどこか良い所を探しているのかと思わせる動きに鼻呼吸が上手くいかず、鼻息が少し荒くなってしまう。苦しくなってきた呼吸に耐えきれず、彼の厚い胸板をトントンと叩きギブアップを伝える。すぐにその合図に気づいた彼は、最後に私の唇を離れ難いとでも言うように強めに吸った後離れていった。
 スネイクさんが左手で頭を撫で慣れながら、乱れた呼吸をする少しだけ唾液で濡れた唇をかさついた右手の指が撫でる。思いを伝える前までの軽い子ども扱いとは違った甘さと優しさを含んだ触れ合いに心が暖まった。スネイクさんは最後に私の頭をぽんぽんと叩くと楽しそうに口を開いた。

「また明日も頑張ろうな」

 ――――――――――

 あの日から、スネイクさんと一緒に居る時間が格段に増えた。船員のみんなには想いが通じたことはすぐにバレてしまい、何かと二人っきりにさせられ彼らなりの思いやりと優しさを感じていた。一緒にいる時間が増えたのにはもう一つだけ理由があった。それは、スネイクさんと交わした"キスの練習"が始まったからだ。あの日は長くキスができるようにと呼吸の仕方であったが、次の日からはバードキスや唇を重ねる前に鼻を擦り合わせてから顔をズラしてキスに移ること、相手の唇を最初に舐めたり、相手の下唇を自分の唇で挟んだりといったものまで多種多様な口付けを彼から学んでいた。色んなキスを学んだけれど、1番の課題はやっぱり呼吸のことについてだった。上手くいったと思っても、スネイクさんの身振り手振りによって全てが乱れ去ってしまう。

 夜になり今日こそはと意気込み、気合を入れながら彼の部屋に向かった。キスの練習はいつも彼の部屋だった。彼に乱されそのまま寝かしつけられたり、寝落ちしてしまったりすることもあれば、少し休んでから自室に戻ることもあり一緒に寝ることを約束している訳ではなかった。スネイクさんの部屋の前に着くと、深呼吸をしてからコンコンとドアを叩く。彼はそろそろ私が来ることを予測していたのか、あまり待たされることなくドアが開き部屋に通される。中に入り、目についた作業台の上には無数の紙が広がっていて、この時間までスネイクさんが作業をしていたことがわかった。

「悪い、もう少しだけ作業していいか?」

 その言葉に頷き彼の部屋の中を見渡す。彼の部屋といっても、大勢が暮らす船の一室であるためあまり広くはなく、椅子は一つしかないためいつものように寝台へと腰を掛けスネイクさんの広い背中を見つめる。彼の二の腕から覗く蛇の瞳と目が合い、スネイクさんを覗き見する悪いことをしている気分になり視線を膝の上の指先に移した。しばらく指先を見つめ、指の腹で爪を撫でる。爪は少し伸びかけていたため、割れる前に切らないと行けないなと思っていれば部屋に一つ置かれた灯りで明るかった手元に影がかかった。不思議に思い顔をあげると作業が一段落したのか、スネイクさんが立っていた。

「終わりましたか?」
「……終わってはないが、キリがいいから終わりにした。」

 終わってはいないからか居心地悪そうに返事を返すスネイクさんに笑ってしまう。彼が時折見せる、他の船員の前では見せない顔が好きだ。目の前に垂れている彼の大きな腕を引き、向かい合い手を握り合う。少しだけ、二人で世間話のような他愛のもない話を繰り広げる。いつもなら会話が一段落したところで、スネイクさんの方からキスが落とされるが、今日は中々落ちてこずスネイクさんの目を見つめて、キスが落ちてくるのを待つ。そんな私の心情を知ってか知らずか、スネイクさんは会話が落ち着くと私の額にキスをした。唇にされると思っていたため、つい目を閉じてしまった私は額へと感じる感触に拍子抜けしてしまう。スネイクさんは私の額から離れると、寝台へと横たわると腰掛ける私の腕を引っ張った。腕を惹かれ、バランスを崩した私はそのままスネイクさんのむき出しの腹筋に背中から倒れ込んだ。「うぇッ」と可愛げのない言葉がこぼれる。左腕を掴んでいた手は倒れ込んだと同時に離され、右腕と脇腹の間に差し込まれる。疑問に思う暇もなく、反対側も同じように腕を差し込まれお腹の上で指を組まれる。スネイクさんの鼓動を背中で感じ、温もりを前後から感じる体制に胸が高鳴る。掴まれた腰周りに力が入ると持ち上げられ、ずるずるとスネイクさんと一緒に蛇のように寝台の上を移動する。枕に頭がついたとき、声がかけられた。

「今日は寝るぞ」

 その言葉に素直に頷きを返しながら、胸が痛むのを感じていた。口を滑らせてから毎日続いていたスネイクさんとのキスの練習。そんなに毎日しなくても、と思っていた部分もあるが唇を重ねないと寂しく感じてしまう。仰向けに寝かされた身体をスネイクさんの方に向け、目を閉じ寝る態勢に入っている彼の顔を見つめれば、普段かけているサングラスを外している顔はいつもよりも幼く見える。薄く、私よりも幾分も大きい唇に彼との接吻を思い出し、頬に血が上る。今日練習をしないのは、私が上手くならないから諦められてしまったのだろうか。それとも、飽きられてしまったからだろうか。でも、今日一緒に寝てるということはまだ嫌われてはないはずだ。考えたくもない考えが頭をぐるぐると駆け巡る。見つめている私の視線に気づいたのか、スネイクさんが薄く目を開けて私の目を見て口を開いた。

「毎日はキツいかと思ったが、するか?」

 熱視線の期待には答えなきゃな、とぺろっと唇を一舐めする顔に視線が離せない。近づいて来た唇に比例するように瞳を閉じる。最初は唇と唇が触れるだけのキスが優しい雨のように降り注ぐ。ちゅっ、ちゅっと鳴るリップ音が耳に十数回響いた頃、スネイクさんの顔が離れていく。その顔を追いかけるように見つめていれば自然と笑いがこぼれ出ていた。スネイクさんは、身体を起し壁に背中を預け寝台の上へとあぐらをかき、膝の上を叩いた。招かれるままに身体を起し彼に近づき、膝の上に座るの躊躇っていれば腕を引かれ、あぐらをかく彼の上に横を向いて収まる。慣れたような手付きで背中に腕を回され身体を支えられる。あっという間の出来事に、やっぱり彼も海賊で手慣れていることを再確認する。過去にむっとし、唇を尖らせていれば山を潰すようにスネイクさんの唇が押し付けられる。先程の触れるようなキスでなく、長く深いキス。鼻で呼吸することを意識していれば、固く結んでいる唇をスネイクさんの舌で軽くノックされる。自らのペースを見出したくなく、簡単には侵入を許すまいと拒んでいれば下唇に軽く歯を立てられ、驚き薄く開いてしまった唇を彼の舌が優しく撫でると、口内に入り込み歯を舐める。入り込んだ舌に緊張し、身体が強張る。口内を蠢く舌にされるがままになっていると背中の手がもぞもぞと動き出し、来ていた服の下に入り込む。布一枚越しに感じてた温もりを素肌で感じ、つぅっと背骨を撫でられ身体が一瞬固まる。その強張りを解そうとスネイクさんの反対の手が膝を擦る。

「んぁっ……」

 擽ったさから口が大きく開いた瞬間、下着のアンダーの下に手が入り込み声を漏らす。漏れ出た声を聞いて彼は唇を離し、満足そうに微笑んでいる。そして私の耳元へと口を寄せると、耳たぶを甘く噛み口を開いた。

「っは、いい子だ。……もっと、だ――」

 スネイクさんも少しだけ息を切らしながら、言葉を紡ぐや否や、断る間もなく唇を塞がれる。薄くなっていた空気を取り戻そうと口で呼吸していた唇は容易く彼の舌を受け入れる。自らの舌に重なってきたスネイクさんの舌のざらつきを感じ、触れ合ったまま捕らえられ離れられなくなる。逃げ出そうとした舌先はすぐさま追いかけられ、彼と深く絡み合う。離される気配のない様子に、空気を求め手を動かしスネイクさんの首元に手を伸ばす。一回空を掴んだ手はスネイクさんの襟を掴むと、スネイクさんに腰を引き寄せられ彼との距離が縮み、より一層彼を感じる。唇を重ねれば重ねるほど、彼と呼吸が噛み合い名残惜しげに銀糸を紡ぎながら息継ぎをする。

「んぅ……――もっと、」

 荒い息を吐き、彼の襟を掴んでいた手を離し両手を首に回し込む。まだ整わない息を消し去るようにスネイクさんの唇に自らの唇を重ね合わせる。スネイクさんの誘うように薄く開いた口唇にすかさず舌を入れる。最初はゆっくりと焦らすように彼の口内を動く。彼の舌をちゅうっと吸い上げると、されるがままになっていたスネイクさんが突然動き出す。舌が絡み合い、わずかに空いていた唇同士の空間は隙間なく密着させられ、より口内の奥へと舌が入り込んできた。反撃のように、彼の方へと伸ばした舌は甘く噛まれ呆気なく撃沈する。より激しく絡み合い、吐息まで飲み込まれる口付けが与えられる。与えられるものを受け止め切れず、首の後ろに回していた手がスネイクさんの髪の襟足をくしゃりと握る。段々と思考も飲み込まれ、意識が白み全身から力が抜け落ちる。スネイクさんの襟足を掴む力も抜けた時、彼の口付けから開放された。

「っん、……はっ、」
「ん……はぁ、っここまでするなんて、言ってない……」
「でも、よかっただろ?」

 二人して息を吐きながら恨み節を溢せば、先程までの乱れた行為を彷彿とさせない笑みを向けられる。息苦しくは合ったが、実際彼との口付けは悪くなくむしろ快感を覚えるものであったのでこれ以上恨み節を強く言うことができず口籠る。私の膝を撫でていた手はいつの間にか撫でるのを辞め、頭にぽんぽんと置かれる。興奮から汗をかき、張り付いた髪の毛を耳にかけながらスネイクさんは私に声をかける。

「……明日も頑張ろうな」



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