CherryKiss



Name Change

「美味いか」

 私の目の前に置かれたガラス皿に山盛りに積まれた赤い実を横目に見ながら彼が私に問いかける。

「美味しいです。クロコダイルさんも食べますか?」

 ヘタを摘み、彼の方へさくらんぼを向ければ即座に帰ってくるのは否定の声。ここで彼に否定されるのは私にとって想定通りであった。さくらんぼを彼に強請ったのは食べたかった、という理由もあるがどうしても彼の舌がヘタを結ぶのを見たかったのが1番の理由だ。少し前に見聞きした、ヘタを舌で結べる人はキスが上手いという情報。普段甘いキスを与えてくれるクロコダイルさんなら絶対に上手くできるはずだ。

「残念、美味しいのに」

 手に持っていた実を口に放り込み、ヘタを抜きとる。小さな実を噛み砕き、中の種を取り出す。クロコダイルさんが興味を抱くように実を失ったヘタを手で弄びらそういえばと彼に話を振る。

「ヘタ、舌で結べます?」

 そう言って彼の方へと舌を出し、人差し指でトントンと舌ベロを誘うように指刺せば、視線の先の彼は静かに顔を歪めた。

「……貸してみろ」

 吐き出された言葉と共に、指で摘んでいたヘタをあっさりと奪われる。自らの願望が叶えられる瞬間を見逃すまいと、口元へと運ばれるヘタを視線で追う。
 口元へと運ばれたヘタは、私へと見せつけるように長い舌の上へとのせられ仄暗い口内へと運び込まれた。舌が彼の口内を蠢いている様子が動く頬を通じて見て取れた。その有り様は、いつも自らの口内を動き回る状況を彷彿とさせた。気恥ずかしく、望んでいたはずの風景からそっと静かに目を逸らした。

「できたぞ」

 目を逸らして数秒。かけられた言葉に、彼の口元へと意識を戻した。外に出されている舌上には、綺麗に結ばれた赤い実のヘタ。流石ですね、とかけようとした声は彼の口内へと消えていった。引き寄せられ、重ねられた唇。抵抗する間もなく侵入を許してしまった口内に彼の舌が動き回る。酸素が薄まり白む視界に彼の胸をそっと叩く。小さな合図、しかし彼はその合図を逃すことなく小さなリップ音と置き土産を残し私の唇から撤退する。働かない頭で新鮮な空気を求め口を薄く開けば、舌の上に違和感を感じ口を閉じ上顎と舌で弄れば小さな結び目を持ったヘタが鎮座していることに気づいた。ベッと舌を出し、ヘタを掌にのせ目の前の彼を見上げれば悪戯げに笑みを浮かべていた。

「欲しそうな目で見つめていただろう?」

口をはくはくとし驚きを隠せない私に彼は続けて言葉を落とした。

「…それとも、お嬢さんはまだソレを御所望かね?」





TOP



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -