「そういえば君と獄寺君って幾つ離れてるんだっけ。三つ?て事は君の歳は、二十七とかその辺なのかな」
訝るような調子で居ながら、首は傾げない。右手の、手首から先の角度を斜めに固定した儘、左手の指を執拗に( 蛇が岩肌を這うような 鳥肌を誘う、 低体温の )緑色をした茎へ絡めてそれらを一箇所に寄せ集めている。

「どうだっていいでしょ、そんな事。少なくともあんたの人生にはほんのこれっぽっちも関係が無い事項だわ」
溜め息を吐きたかったけれど堪えた。おまえに溜め息は似合わないと、昔に彼が笑ったから。笑顔がとびきり良いのだと、昔に彼が頷いたから。だから今もルージュの色には拘っている。

「つれないね」
語尾を微かに上げる細工だけはして、肩を竦める真似もしなければ振り向くと言う選択もしない。

こいつに私の尾は届かない。ピエロは帽子を被って仮面を着けて手袋を填めて、靴を履いて首周りも隠してしまうから針が刺さらないの。臆病者が二匹居るのよ(数え間違いじゃないわ、)。
毒蠍、そう呼んだのは誰だったか。お見事・正解・大当たり。だって私はただ料理を創るだけ、若しくは愛を紡ぐだけで、其れ以外の事に両手指を使う機会は酷く少ないもの。牙も爪も無いからを飛ばすのよ。抑えつける為の鋏は捨てたわ、そんなものが在ったら抱擁を交わせないじゃない。

「――、出来た。結構綺麗だと思わないかい?日本に居る職人に特注した漆塗りの花瓶なんだよ、コレ」
そう話す声には機嫌の良し悪しが含まれていない。ただ軽く、温度の削がれた音。
それまで何やら絶え間なく動いていた両腕が降り、爪先の向きが変わり、身体が幾らか横へずれて、今しがたまで白い背中に隠されていた壁の一部が私の視界に映る。

「……………、 ……」
そして其の声が言う「コレ」は、黒々とした艶やかな表面と鈴蘭のような丸い輪郭を有した花瓶から名も知らぬ黄色の花が束になって生え、且つ、ご丁寧に花達そのものが球体を模すように象られて活けられた「其れ」だった。

黄色と黒。黄色と黒。丸い黄色。黄色と黒。嗚呼心臓の一番柔らかい所が痛む。だけども何て幸福な事、愛の残像はこんなにも鮮明。こいつが白いスーツと黒いシャツを好む輩であった事を初めて喜ばしいとさえ思えた。
おまえになどなみだのひとつぶさえも呉れてやるものか。
愛を孕んだをんなの背骨を、仮面に描いた唇で喰えると思うな。
お前の謳う大空も常に眩い太陽に侵されている事を忘れるな。あの輝きが沈めば頭上は彼の眼と同じ色をした夜に染む、せいぜいお前の愛すべき白を血眼で探しなさい。

「ええ。綺麗ね」

リップクリーム(透明色、ヒアルロン酸入り)
を塗ったくちびるで
そこそこの微笑を寄越してやる



をんなよ、棘は常時しとやかにばら撒け




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