”さあ今一度よくよく考えてもごらんなさいな、おまえの右眼は初めから赤くなんて無い。赤くなんか無い。恐ろしいまでに忠実にシンメトリーを振りかざして、仄暗い寒色を抱き込んでいるじゃあないか。”

アハハ、ハハ。ああ喧しい騒がしい。大口を空けて笑うひとはきらいよ骸さま以外。高らかに誇らしげに誰彼を見下して笑い声を浴びせるひとはきらいよ骸さま以外。それならば私は私が嫌いなのでしょうけれど、そんなちっぽけな事一向に構わない。
笑うのは骸さまだけで良いの。
ガーネットの支配者は、いいえ紅と云う紅の支配者はただ一人、骸さまだけで充分なのだから。私などが態々不釣り合いである事を自覚した上で高貴な色彩を纏う必要は一片も無いの。
右眼が暗いから何だと云うのかしら、もしもこの瞳が赤々しかったならそんなモノ刔り抜いてみせる。視神経を晒してしまった方が幾分かマシだもの。

だけれど私は紅が好き。


「お前には、血の色がよく似合いますね。年頃の娘に贈る台詞としては華が有りませんが」
「いいえ、骸さま。私には充分です」


ヴァルキリアに憧れた少女よろしく頬に乾きかけた血液をこびりつかせて戦を終えると骸さまは何時だって柔らかく、それはもう密やかに微笑んでくれる。
だから私は紅が好き。
ルージュを欲しがらずともイブニングドレスを強請らずとも、私はただ槍の矛先を玩ぶだけで最上の女になれる。


”「ジャスト・ア・モーメント・プリーズ?」いいや今一度よくよく考えてもごらんなさいな、おまえの右眼は初めから赤くないのだから逆もまた然り、左眼だって赤くなんか無い。恐ろしいまでに忠実に振りかざしたシンメトリーがこうも雄弁に語っているじゃあないか、おまえは紅くなどなれないのさ!”

クスクスクス、嗚呼いい加減にして欲しい。態とらしく口唇を閉ざしてまで漏らす含み笑いは好きじゃないの。どうせならば骸さまの笑う声が聞きたい、お行きなさいと促す声をロザリオ代わりに両腕が千切れるまで槍を振るいたい。
私は私が好きでは無いけれど、そんな当然の事を今更気にはしない。だって私は紅が好き、だって私は骸さまの為に有る。


「クスクス、クス」
「おや。今日は随分と上機嫌ですねぇ…何か良い事でも有りましたか、可愛いクローム」




あら嫌だ、もしや先刻から煩かったのはこのくちびるだったのかしら。





‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

誕生日おめでとう、クローム。
(Birth day:12.05)

title⇒にやり



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