白い部屋に白い人が居る光景は酷く自然で、あまりにも異質だ。
脳髄の一端がそう訴えては居るけれども自分自身の意識はと言えば其の主張を拒絶した。

それでも予感だけは有った。
男が白いならば、何時かは白に埋もれるのだろうと。骨が地中に沈むように彼も白に還るのだろうと、漠然と感じていた。
肌の持つ薄い色素も瞳が孕む竜胆色もきっと、否、必ず何時かは全て白に喰われるのだ。白を染めゆくものだとばかり思われている三原色でさえもきっと。


「ねえ、××」


男が語る。呼ばれた筈の二文字の名前は、何故か鼓膜と耳朶の間でぐにゃりと歪んで単なる声に成り下がった。
嗚呼どうやら脳みそと云う器官は相当に利口なようだ、艶かしい低音が紡いで寄越した其れを名称だと認識する事を自動的に回避してのける位には。

窓硝子の向こう側で雪が散布され始める。視界を覆うでも無ければ景色を霞ませる訳でも無い六花が、くすくすと、それはもうたおやかに此方を嘲笑った気がした。

雪が降っている。つまりそういう事だ。
黒い革靴の爪先は出入り口に向き、ピンク色をしたエナメル素材のパンプスの踵も出入り口に向いている。つまりはそういう事なのだ。酷く賢い脳みそは勿論の事理解に至っている。
ならばこの両眼から滲み出て落下する液体は何だ。ならばこの心臓が阿呆みたいに騒がしく喚き立てる理由は何だ。


「連れて逝ってあげられなくてごめんね。君はやがて来る安寧の中で静かに息づきなよ、僕の腕は君を抱くにはちょっと冷た過ぎたから」
「白蘭さん、」
「何時か何処かで逢えたら良いね。僕さ、今も昔も本当はいつだって必然より偶然が好きなんだ」
「白蘭、さ ん」


窓硝子の向こう側にだけ雪が散布され始めた。男が出向くのを今や遅しと待ちわびる六花が、くすくすと、それはもう慎ましやかに此方を哀れんだ。

雪の勢いは先刻よりも幾分か強くなっている。優秀な脳みそが悟った、結局二対の爪先が揃って同じ方向へ歩む未来図は妄想の儘で終わるのだ。
然様ならを言わない男の、最後の陳腐な気遣いが何より痛い。





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