もがく事に、少しずつ疲れてきていた。恋心が蔦になって胸と両手をぎりぎり絞めるのだ。刺の生えた茎だったなら痛いと言ってしまえるのに、苦しいばかりでどうにも動けない瞬間ばかりが増えていく。例えばその白く柔らかい頬をそうっと両手の平で包んで俺の方を向かせる事だって、最早俺に因る強制と俺が施行する我が儘、そんなものに思えてならない。
 だから蔦の絡む指をだらりと身体の脇にぶら下げて、或いはポケットに潜り込ませ拳を握って、俺はお前の綺麗な目が発するビームの如き熱視線が他の男に向けられる様を直視しなければならないし、お前の愛らしい唇から流れるように語られる他の男とのエピソードに眉を一ミリも動かさずに居る必要がある。何故って、そうでもしなきゃ俺はお前にとっての頼れるお兄さんという位置すら守れないからさ。
 俺がこうも、こんなにも、これ程にお前を欲しているなんて、きっとお前は想像もしていないんだろう。深さが違う。何の深さかって?欲の、だ。
 そうして俺は、育ち過ぎて根が少々腐った植物のようなこの好意を抱えて立ち尽くすしかない。



俺の腕の中でハルがぽつんと佇んでいる。つい今しがた精一杯腕を伸ばして抱き寄せた。掻き抱いた、位のつもりだった。
けれども俺の体内を駆け巡る神経達は全て脳と繋がっているが為に、脳の、脳の中で渦を巻く感情が叫ぶ儘、実際には酷く臆病な雰囲気を湛えた両腕がその華奢な肢体を囲うだけに留まっていた。情けないの一言に尽きる。
少し体温の高いハルの肌は見た目通り滑らかで、ほんの僅かに気を抜けば俺が作り出した貧相な檻なんてあっさりとすり抜けて日なたの下へ駆け出して行ってしまいそうだ。空からぎらぎらと注がれる陽の光はきっとハルの素肌を更に輝かせる事だろう。白い肌。自分が仕事に出る時だけは、土汚れや血痕が目立たないように黒色で全身を覆うようになったのは何時からだったか。その癖ハルに会う時だけは寧ろスーツが着られない。自己嫌悪と擁護願望の狭間で揺れている。

肩も二の腕も手首も剥き出しにしたハルの姿は凶器のようだ。俺も染めて欲しい。ハルを染めたい。でも分かっているんだ、お前に喪服は着せられない。何故かって?黒のスカートから覗く生白いふくらはぎなんて目撃したら、悼む心すら欲に殺されるじゃねえか。男なんて残念な生き物だ。
想っても想っても想っても届かない、伝わりきらない、相手の気持ちが自分の気持ちに追い付いちゃくれない、そんな感覚を心身の両方で理解しているのは俺なのに。なあハル、縋れよ。そしてビームで俺の両眼を焼いてくれ。

「ディーノさんはあったかいですねえ」

ハル、ハルそれは違う。お前の細い両の腕が冷えているんだ。俺の体温は平熱でしか無い上に足の指は特に小指が冷えてしまっていて、とてもじゃないがお前をあたためてはやれそうにない。

「お布団みたいです。やんわり包まれてる感じがするんですよ、ディーノさんは背もすごく高いので」

背の高さなんざ何の武器にもならねえよ。なあ知ってるかハル、こんなきんきらの髪で百八十センチを越える身長を持った野郎はな、人混みの中に居ても比較的見付け易いんだと。ライフルのスコープから覗くも良し、廃ビルの一室から双眼鏡で探すも良し。周囲をぐるりと部下で固めても、きんきら頭がひょっこり飛び出しちゃ意味が無いんだ。前世はもぐら叩きのもぐらだったのかもな。
それならもう、今生もお前に叩き潰されたい。

「落ち着きます」

嗚呼お前の可憐な唇がまた釘を突き立てる。安定の頼れるお兄さん枠。俺の腕は蔦にはなれない。


ここにいるんだよ






t.joy

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テーマ「人外ファンタジー」
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