そもそも一般だの普通だの常識などといったものが一体何をどうやって主軸に据えているのか判らなかったが、それでも自分が人よりは幾分かサディスティックな傾向にあるだろう事はぼんやりと分かっていた。其れは例えば基地内のとある密室から聞こえてくる叫びに眉が動かないだとか、己が部下の管轄内に人体被験部が在る事に特に生理的な嫌悪が沸かないだとかそういう事では無くて、強いて言えば子供が何となく蟻の巣に水を流し入れてしまう行為に似ているのだ。
 巣には沢山の蟻が居るのだろう。卵も。それは解っている。しかし目に映るのは黒く湿った土と小さな穴だけであるが故に、どうにも罪悪感の抱きようが無いのだ。決して宜しくは無い事なのだと頭では理解しているつもりなのだが、清々しいまでの無頓着がそうさせる。

 つまり白蘭の持つサディスティック性は「そういうもの」で、嗜虐嗜好というよりも単純に好奇心が先立つものであるからこそ対象に無関心で居られる気質だった。いけない事なのだろうな、と薄ら解っている事柄に手を出したくなる。自分の指がなかなかの可能性を持ち得ているように思える。そうして対象にある程度の傷が見えた時、確かな満足感を味わってしまうのだ。
 だからこそ白蘭は、鋏を片手に迷っていた。

 「ずーっと睨めっこしてるのね」
 「どうしようか迷っちゃうんだよ」

 鋏の持ち手に指を引っ掛けてくるりと回し、掴み直しては刃に空気を噛ませ、そしてまた右手の中で其れを遊ばせる行為を繰り返す白蘭に向けて、ブルーベルはいかにも退屈そうな声を放った。

 「ボブとロングだったらやっぱりロングを選びそうでさ」

 そうぽつりと呟くと、丸い大きな蒼い瞳の周りを囲っている睫毛達が瞬いた。鋏の刃。銀色。細いフォルムが潜り込む先に在るだろうものの予測はついたかい。真っ青な残骸の上に立ったなら泣けてしまうような気はするかい。自らの感情に素直な罵倒と、僕の手でちょっとピンク色に色付けられた勘違い、其のどちらかを選ぶ意思はあるかい。

「僕だけのものにされる気、ある?」







t.人間きらい

リハビリ短文
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -