※注意※ 同名少女漫画のネタが元ですが書いた人が原作読んでないです。 むしろ心臓病のシゲルと病院の娘のサトシの学パロと思った方が無難です。Wiki程度の知識しかありません。すみません。 あとサトシが普通に女体化してます。 それでもおk!な方のみご覧ください。 読んだ後の苦情は受け付けません。すみません。 スクロールでどうぞ。 (僕達の恋愛には、タイムリミットがある) 「シーゲールっ!」 病院にとても似つかわしくない大股の足音。 がらがらぴっしゃん。壊れるんじゃないかと思うぐらい豪快に、彼女はその病室の扉を開ける。 本を読む手を止め、振り向いてしぃ、と口に指を当てて意地悪く笑えば、ごめんごめん、と悪びれない笑顔。 これが、日常。 「今日は何の本読んでるんだ?」 「看護婦さんに勧められたやつ。有名な作家の本………だけど、サートシくんは知らないか」 「うっさい!悪かったな本読まなくて!」 携帯は使えない、ゲームはあまりやらない。勉強も長時間は禁止されている。 狭く制限された病室での、シゲルの唯一の趣味は読書だった。集中すると時間を忘れる性質のおかげで、暇はいくらでも潰れる。知識を拾い上げる作業は好きだし、何より活字を追ってその中に入り込めば、なかなか外に出られないために狭くなりがちな自分の世界を広げることができる。それが楽しい。 ―――もちろん、彼女と話す時の楽しさには敵うわけもないけれど。 「それで、学校はどうだった?ちゃあんと寝ないで聞いてたんだろうね」 「うっ……し、仕方ないじゃん!今日は数学あったんだからさあ……」 「やれやれ、またテスト前に泣きついてこないでくれよ?」 「だっ、大丈夫だって!………たぶん」 気まずそうに頬を掻いて笑うサトシは、勉強全般が大の苦手だった。 特に数学は全く肌に合わないらしく、毎回テスト前になると赤点の危機に騒ぎ出しシゲルに教えを請う。何だかんだで幼馴染の彼女の頼みは拒否しきれず面倒を見てしまうのだが、それでもいつもすれすれの点数だった。苦手なんだから寝ないで真剣に聞いておけばマシになるのではと毎回思うのだが、彼女に言わせれば苦手だから眠くなる、らしい。 大丈夫とは言ってはいるが、あと二週間もすれば間違いなくまたおねだりが始まるだろう。やれやれ、と小さく溜息をつく。 「大体、授業出てる君が授業出てない僕から教わるってどうなんだよ………」 「シゲル、こっちでもちゃんと勉強してるじゃん!俺はほら勉強してないから」 「偉そうに言うなよ、全く」 「あ、そうだ!おみやげ!」 「話を逸らすなんて高等技術、いつの間に身につけたんだいサートシくん」 「その呼び方やめろって!意地悪してるとおみやげやらないぞ!」 ぷう、と頬を膨らませる彼女がかわいくて、思わず笑みを漏らしながらごめんごめんと謝る。笑うな、と顔を赤くしたサトシももちろん本気で怒っているわけではなかったから、すぐに気を取り直して鞄を漁り出した。 お菓子、ノート、お菓子、ピカチュウの人形、何故か剥き出しの鉛筆、お菓子。サトシの荷物がばらばらとシーツにちらばって山になっていく。学校帰りなのに教科書のひとつも出てこないところが彼女らしい。そしてよくこんなに詰め込めるものだと感心するぐらい山が大きくなってきた頃、ようやく目当てのものを見つけたのか、ぱっとサトシが顔を上げた。 「見つけた!ほら、これ!」 へへ、と笑いながら差し出してきたのは金属製のペンダントだった。 いびつではあるがブラッキーの形をしていて、裏側に不器用な字でシゲル、と彫られている。ちゃんとやすりをかけてあるらしく、表面はとても滑らかだった。 少し驚いてサトシを見ると、得意げな笑みが返ってくる。 「すごいだろ!技術の授業で作ったんだぜ!」 「ああ、それでか……いいのかい、もらって?」 「シゲルって書いてあるじゃん!あげるためにがんばったんだからちゃんともらってくれよなっ」 「………、うん。ありがとう」 笑って、ベッドの横の引き出しにそっとしまう。もらった大事なものはいつも同じ、一番上の引き出しに入れていた。 小学生の頃から入院ばかりだったシゲルに、サトシはよく学校や家で作ったものをくれる。下手な字で書いた表彰状だとか、メダルだとか、絵だとか。 上手くできただろ、あげる、とふんぞり返って渡される時と、それを受け取ってありがとう、と言う時、サトシはいつも一番うれしそうに笑うのだ。おう、と、弾んだ声で返事をしながら。 それを見るのがうれしくて、彼女からもらったものが引き出しを埋めていくのが楽しくて、シゲルも思わず笑ってしまう。 サトシの笑顔は、いつでも暖かく心を満たしてくれるのだ。 「なあ、次は、いつ退院できるかなあ」 「そうだね………最近は体調もいいし、来週には家に戻れるかな」 「そっか!じゃあまた退院祝いしなきゃなっ」 「サトシは騒ぎたいだけだろ?」 「そんなことないって!」 シゲルは、生まれつき心臓が弱い。 いわゆる心臓病、というやつで、激しい運動はできず、たびたび具合を悪くして入院を繰り返していた。 そしてそれは、年を経るごとに悪化している。 医者にも完全な治療は不可能だ、と首を振られた。せいぜい、発作が起きる度にその症状を軽くすることぐらい。薬を処方されて、酷いときは手術。それでも、それだけ。一度酷い発作が起きればしばらく続くから、入院して経過を観察する、だけ。 きっと治す方法をお医者さんが見つけてくれる。小さい頃から祖父はそうシゲルに言い聞かせてくれた。苦しいのは今だけ、大丈夫、大丈夫。シゲルはいつも頷いて笑った。祖父を安心させるために。困らせないように。 本当は、知っている。 「………な、シゲル」 「ん?」 「……早く元気になって、一緒に遊ぼうな」 「………うん」 約束をした。 二十歳になったら結婚しよう、と。何も知らず、未来を自由に思い描いていた幼い頃。 大好きな、大好きな彼女と、結婚したいと、笑った。 頷いてくれたのが幸せで、何度も何度も、綺麗な白い衣装を纏って神父に誓いを立てる自分達を想像して、夢見て。 けれど。 二十歳まで、シゲルは生きられない。 「じゃあ、今日は帰るな!」 「うん。………あ、サトシ」 「なに………、」 背を向けかけたサトシの腕を掴んで、ぐっと引き寄せる。 そして振り向いたその唇に、ふっとくちづけた。いち、にい、さん、数えて口を離せば、ぽかんとした顔が一気に赤く染まる。 うええ、とかあうう、とか言葉にならない声を発している彼女がかわいくてくすくすと笑えば、恥ずかしさが頂点に達したのかばしっと頭を叩かれた。結構痛い。 「ったた……キスぐらいで恥ずかしがるなよ」 「ううううるさい!不意打ちなんて卑怯だぜ!?」 「じゃあ申告すればいいのかい?キスするよって」 「そ、それも………っ」 「あはは、からかうの飽きないなぁサートシくんは。また明日ね」 「っ、バカシゲル!明日は見返してやるからな!」 真っ赤な顔で叫んで、入ってきた時よりも大きい足音を立てながらサトシは出て行った。 一応手を振って見送って、足音が消えると同時に手を下ろす。音のない空間には慣れているけれど、サトシがいなくなった後の静寂はいつもやけに寂しくて。引き出しを開けてついさっきもらったペンダントを取り出し、ぎゅう、と握り締めた。 胸が、痛い。 (ねえ、サトシ) 未来なんて望むのはとっくに諦めてしまった。 確実に弱っている体。発作の回数も頻繁になった。わかっている。そういったことに聡い自分の頭が嫌になるぐらい、わかっている。 それでも、知らない振りをして。 (僕はあと何回、君にまた明日、って言えるだろうね) 笑っていたい。 笑っていてほしい。 最後がもうすぐ先でも。もう少し。もう少し、だけ。 僕の初恋を君に捧ぐ |