「ヘマ、したんやってなあ」

 そうやって声をかけてやれば、スイは恨めしげにこちらへとゆっくり首を動かし、シキの姿を確認したらまた蒼白のシュリの顔へと視線を戻した。知り合いだと言って容態はどうなのだとジョーイさんに訊いてみれば、けがを負って運ばれてきたので治療を進めると、持病が悪化していたことが判明したという二段攻撃だったらしい。スイにはこうかばつぐん、やろなあ、と思わずその頭を掻いてしまった。

「なんでお前がいるんだよ」
「おったらなんかまずいことでもあるんか?」
「いつも気付いたらいるから」
「お兄さんはお仕事で各地飛び回っとるだけ。なぜか知らんけどいつもなんや騒ぎがあったと思ったらその真ん中にお前らがおるだけやわ」

 別にいたくているわけじゃない、と小さく拗ねたように呟いたスイは少しだけ震えていた。

「泣き虫は相変わらず健在らしいな」
「うるさい」
「情けないやっちゃなあ」
「うるさいって言ってるだろ!!」

 どうやらご機嫌も最悪らしい、とシキはそのため息が聞こえないように薄く息を吐く。
 ――こいつら、いつか共倒れするんちゃうやろか。
 まだまだ幼い彼らは感情の処理の仕方を知らない、とても不器用なこどもで、シキは時々羨ましいとすら思う。あんな風にむきになって何かに夢中になれたら、と。

「なんでお前が凹んでんの」
「……なんでって」
「そんな情けない顔するくらいなら、シュリが早く目を覚ますように名前の一つでも呼んでやり」

 スイは躊躇っていた。視線がゆらゆらとさまよい、シュリのその閉じられた目元に目をやればまた泣きたくなってしまう。拳をぎゅっと握りしめ、それを見つめていた。

「おれ、こいつがいないと何もできないのかな」
「それはお前がするかせんかの話やろ」
「そう、だけど」

 シュリ、ごめんな。早く起きて。そう言ったスイの声は、まだ震えていた。



03.きみのいない場所

(脆く儚いのはみんな同じなんやろか、と思ってしまう)



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