危ない、という声を聞いたのは自分がそのポケモンが作る影の中に入ってからだった。
 シュリは強い。彼の仲間であるポケモンたちとてそうだった。今までにたくさんの場所を歩んできた心やさしい仲間たちは、優しく、強かった。

「シュリ、シュリ、しっかりしろよ……っ!」

 だけど、シュリは不意打ちに驚くほど弱くて。

「すぐにセンターにつくから」

 自分よりも大きなポケモンにふと背後を取られ、影の中からその姿を見上げてしまっては、途端に地に根が張ったように動けなくなってしまう。それは彼の記憶のせい。大きく恐ろしい影は、彼の記憶の中の影を実像として映し出すのだ。
 だから、スイはシュリを守ろうと決め、ともにいた。彼の心の、身体の傷が血を流すところを何度も見てきた自分だけは必ずそばにいて、守ろうと。

「くそ、なんで……!!」

 ――どうして守れないんだろう。
 いつも自分は、彼が血を流してから泣いてばかりだ。シュリの細い腕に守られたことは何度もあるのに、どうして自分はもっと強くなれないのだろう。追いかけても追いかけても、自分のよく知っているはずの背中は遠くなっていくばかりで、追いつくのに必死でたまらない気分になる。
 背中に負う彼は、すぐに消えてしまいそうなほどに軽いのに。

「……なんで……」

 泣くな、と思った。彼を背負っていなければ自分の頬を張り飛ばしていたところだった。泣き虫な自分ではシュリを守り抜くことなんてできない。もっと、強くこの地に立っていなくてはいけない。
 ――こいつは、俺が守るって決めたんだ。ずっと、ずっと昔に。

 自分で言ったはずの言葉が、今は重く重くのしかかる気がした。



02.影をおう実像

(この身体はこんなにも華奢で、彼の存在はこんなにも希薄で)



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