シュリは夜が嫌いだった。夜はどうにも、自分の記憶をじわじわと滲ませてすぐそこまで迫ってくる。それは鮮血の赤の記憶だった。自分さえいなければ、自分さえ強ければ。
 あの優しい父は、決して死ななかったのに。

「スイ、今日は、一緒に寝よう」
「どうしたんだ、いきなり」

 めずらしい、と首を傾げてくる幼馴染は自分が夜を嫌っているのを知っている。何も言いたくはなくて黙っていたら、わかった、じゃあ枕持ってくから待ってろな、といつもの笑顔で応えてくれる。
 ――スイは、すき。
 馬鹿みたいに騒いでみたり、実はとても泣き虫だったりする彼が自分はとても好きだった。スイは太陽の匂いがする。あったかくて、ほっとする。
 ――布団みたいだ。
 くるまれたら幸せになれるだろうな、とすら。

「ほら、もっとそっち寄れよ」
「う……」
「よし、寝るか」

 なんでもないようにスイはシュリの頭をなでる。

「明日、久し振りにバトルしようぜ?今度は負けねえから!」
「いつも負けるくせに」
「ばっかお前、ずっと成長してないわけじゃないんだから、いつか勝ってやるって」
「おれも、ちゃんと成長してるもん」
「それ以上に、だよ」

 自分より強くなったら、他のところに興味を持っていつかスイは離れていくんじゃないのか、とは、訊けないまま。更けゆく夜の中に心地よい寝息が耳に触れた。

「スイ、寝たの」

 規則正しい寝息が今だけは憎らしい。ばか、と呟いたシュリも次第にその寝息に誘われるように夢へと落ちていった。



01.きえていく呼び声

(スイはきっと、どこにもいかない)



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