――サトシは光だと、思う。

 隣ですうすうと気持ちよさそうな寝息を立てているサトシを見つめながら、シゲルはそう胸中で呟いた。
 何度も危ない真似を繰り返しては平然と笑い飛ばしてしまう彼はとても眩しくて、瞬きをしてしまえば次の瞬間、その場から消失してしまうのではないか、とすら思うのだ。
 ひとりぼっちの悲しさやつらさを知っている彼を知るのも、彼が誰よりも人を救うことをできるのを知っているのも、大粒の涙をこぼしながら好きだと繰り返すサトシを知っているのも自分だけなのに。いや、それを誰より知っているからこそ、サトシがどこかへ行ってしまいそうな気がするのかもしれない、のだ。

「すきだよ、サトシ」

 強い力を持ってるくせに腕はほそっこいし胸板は薄い。華奢な体なのにその意志は誰にも曲げることのできない強固さを持ち合わせてる。
 シゲルは、自分がサトシを世界につなぎ止める存在でいられないことを知っていた。それなら、

 ――それなら、誰より君を自由にさせてあげられる存在でいられるように。

 サトシの頬に手を添えて、そのぬくもりに酷く安堵する。
 手を伸ばしてもすり抜けてしまいそうで、確かなぬくもりがそこになければ今の自分はどうなるのだろう。

 ――何考えてるんだか……

 本当は、誰よりどろどろと黒い感情を体内にはらませているのは自分自身で、それを諦めと理性で片付け続けてるのは自分自身だ。

 出来ることなら、眠る君には僕の夢を。
 叶うなら、君の帰る場所を僕だけに。
 願いは、君のままで誰より僕をそばにと願う君自身。

 どこまでもサトシを自由にする、その翼をへし折りたくはない。サトシ自身の意思で自分を選んで欲しい。
 シゲルはサトシに触れる手を彼の耳の後ろに移動させ、その髪をゆっくりと梳いた。
 ほんの少し、体をごそごそと動かしたものの、サトシはまた落ち着いたようですぐにすう、と先ほどと同じような寝息を立て始めた。

「あいしてるよ、サトシ……」

 少し体を起こして幼い唇に、ゆっくりと唇を寄せた。

「あいしてるんだ」

 その言葉が君を縛る、呪いの言葉になりませんように。




*****
せめて、心だけはすぐそばにと願うけど口には出せないシゲル。誰より大人な振る舞いと誰より幼稚な想いは相反するか、とけあうのか、なんて。


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