触れるところから段々熱が拡がっていくような、そんな感覚に思考がゆっくりと溶けていく。

「おいで、兄さん」
「……ん」

 大人しく身体を滑らせて雪男の肩に頭を預けると、雪男はゆっくりと燐の頭を撫で、もう片方の手は優しく燐の手に重ねられた。雪男の手はあたたかく、その手つきは優しい。どうしようもなく顔が熱くなるような感覚の中、燐は彼の肩に顔をすりよせ、ゆっくりと首に腕をまわした。

「あったかいね」
「おう」

 嬉しそうに雪男の顔がゆるむのを感じながら、身体に回される彼の腕を受け入れた。

「ゆき、」

 そう燐が小さく呟いて頬に手をやると、視線がいきかう。細められた目はゆっくりと閉じられ、唇に唇が乗せられた。少しの時間触れたかと思うと、次には濡れた感触。驚いて身体を引こうとしても、雪男の腰に回された腕が、後頭部を支える掌がそれを許さない。ん、と声を漏らせば雪男はより深く口づけてくる。歯列を舐めあげるその舌に頭の端から溶かされていくのを感じながら、力が抜けていく手で雪男の肩をぐっと燐は握った。

「――…いい?」
「……、やめる気なんて…ないくせに…」

 少しだけ上がった息をととのえながら、触れそうなほどの唇の近さで雪男がそう囁くのに胸を鷲掴みされているような気分だと燐は視線をそらす。ありがとう、と嬉しそうに雪男が笑えば、こんなの拒めるわけないじゃない、と燐はゆっくりとまた目を閉じてその口付けを受け入れた。

「兄さんってキスするの好きだよね」
「う、うるさい」
「素直じゃないなあ……」

 身体がびくりと震える。雪男の手が服の中に差し入れられ、ごつごつとした太いその指の感覚を確かに感じながら、燐はゆっくりと身体に力を入れないようにと努めるがやはりその努力も空しく。ぎゅう、と首にまわした腕の力を強めると大丈夫だよ、と耳元を優しい声がくすぐった。
 いつまでたってもこの空気に慣れることはきっとないと思う。理性を自分から打ち崩すというのはどうにも慣れない作業で、いっそ思考全てが溶けてしまえたら彼に委ね、欲望に忠実になれたのかもしれない。でも、だめだ。

「っ、ゆ、き……」

 服の中、背中に回った手がゆったりと燐の背中を撫であげるその優しい触り方にどこかもどかしさを感じ、燐は身体をよじらせた。そして雪男のあたたかい手が燐の胸へと滑り、その感触を楽しむようにして弄ぶのを感じる。

「兄さん、キスしたらそういう気分になるでしょ」
「なんで、そんなこと…ない……」
「顔、見たらわかるから」

 そういって頬に落ちてくるのはくすぐったいほど優しい彼の口付け。ああ、また落ちるのかと具体性のない、掴みどころのない思考を霧散させながら、燐はその身体を雪男へと預けた。

「大丈夫だよ、ちゃんとここにいるから」

 そして彼の口付けは目元、耳元、唇、首筋へと落ちていった。


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