ああ、いつものスイだ、と目覚めたときに思う。自分の頬に当たるのは彼がこぼした雫。つめたい、と小さく声を発せば、けたたましく吠えるようにスイは自分の名前を呼んできた。

「そんなに大きな声じゃなくても、きこえてる」
「よかった……っ!!」

 心配した、よかった、ずっと寝てたんだぞ、とまくしたてるように言う彼の声はもうぐずぐずで、申し訳ない気持ちの半面、なんだかとてもあたたかくてくすぐったい。

「なきむし」
「誰のせいだと……――」
「ごめん」

 素直にそう言えば、スイはあわてて謝ってほしいわけなんかじゃなくて、と言うが、その言葉は尻切れトンボだ。段々と声は小さくなり、やがて口を閉ざしてしまう。

「変な夢、見た」
「え?」
「もうほとんど、覚えてないけど」

 ただ脳裏に焼きつくのは、スイが来てくれたことで突然、足を濡らしていた液体は澄みきった水に変わったことだとか、そこに映った真ん丸の満月であったりする。だが、何よりも思い出せるのは、手のひらが暖かかったことと、スイが笑っていたこと。

「やっぱり、スイが一緒じゃなきゃ、だめ」
「あ、当たり前だろ。おまえ、俺がいなかったらちゃんと飯も食えないのに」
「いつもありがとう」

 やっぱりおれを助けてくれるのは、いつもスイなんだ。
 そう、呟くように言うと、スイはぐっと唇をひき結んだ。泣くのをこらえているのだろう。シュリはまた少し笑って、ぼそりと言葉を吐く。

「泣き虫」
「うるせえ!」



05.ゆめのあと

(大切なのは、きみ)


END.


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