「なあシゲル、“コイビト”と“トモダチ”って何が違うんだ?」

 それは難題だね、とシゲルが笑ったのが意外だった。なんにでもさらりと答えて見せる彼のことだから、この答えにも馬鹿だな、サトシはって言って簡単に答えてくれると思ったのに、とサトシは頬杖をついたままじっとシゲルの顔を見つめていた。

「難しいのか?」
「結婚、はちゃんとした紙に書いて契約するだろう?“コイビト”も“トモダチ”もそんなものはないからね」
「うー……わかるようなわかんないような」

 サトシにはきっとわからない。そこに情欲があるかないか、なんて言ったって、それは新しいポケモンか、と訊いてくるだろうと容易に想像ができるのだ。独占欲の有無だという人もいるが、恋人に独占欲を感じない淡白な人間もいれば友達でも独占欲を感じる欲深い人間もいる。
 ――もちろん、僕は後者。サトシに関してだけ、だけど。
 ふふ、と笑いながらシゲルはそう心の中で呟く。絶対に言わない秘密。未だ秘密。自分がサトシの“親友”である限りは、今は未だ、時期じゃない。
 小学生に上がるよりも前、小学生になってからもサトシはいじめられっこだった。同じ病院で生まれ、それこそ物心つく頃までシゲルとサトシは一緒に育ったが、シゲルたちの家族は小学校に上がる前に一度引っ越してこの街にはいなかった。小学校の半ばで再びこの街に帰ってきたときは驚いたものである。自分の太陽だと言っても過言でなかったサトシの笑顔は陰り、あんなにも明るかった声はもうこの鼓膜を叩かない。そして聞いたのはいじめられている、という事実。どうして?とシゲルは自問自答を繰り返す。そんなやつら、僕が全員たたきのめしてやるのに。サトシは力が強かったのだから喧嘩なんてしたって負けなかっただろうに。
 そこから、シゲルは太陽を取り戻すために躍起になった。朝には一緒に学校に行こうと家により、学校にいる間も何度も話しかける。一緒に遊びに行こうと誘ってもサトシが乗り気でなかったときは一緒に教室で少しずつ話し、たとえ話さずとも一緒にぼんやりと時間をすごした。

「でもオレ、シゲルならコイビトでもいいかもしれないなあ」
「え……?」
「ば、冗談だよ冗談!」
「僕も、サトシならいいな」
「え!?」

 まだ秘密。それは本当だけれど今はそれを嘘にする。いつか甘い言葉を君が本物だと気付いてくれるまで。

「バカだなあ、サートシくんは。冗談だよ」

 顔を真っ赤にしてわめきちらすサトシの言葉を笑いながら聞き流す。だけどこの表情を見ていればわかるのだ。自分は、きっと誰よりも彼の心を占めているのだと。今じゃたくさん友達もいて、いっぱい笑って見せる元気なサトシだけれど、彼の本当の悲しさに触れたのはサトコを除けば、自分だけだとシゲルには確信があった。

「だけど一番大切だよ」

 ――その意味をきっと今はまだ君はわからないんだろう?
 それでもいいよ、とシゲルは小さく呟く。サトシの表情をシゲルは、知らない。



02.「恋人」と「親友」の差

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(それは細やかな差異)


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