自分でもいうのは何だが、とシゲルは前置いた。
 ――僕とサトシは、すごく、近い存在だという自負がある。
 生まれた病院が同じ僕たちは、その病院で知り合って仲良くなった母親たちのお陰で本当の兄弟のように育った。そこには勿論サトコもいたし、スイもいた。けれど、だけどそれでも、僕とサトシは“特別”だった。僕が呼吸をするためにはサトシが必要だったし、幼いころ心を閉ざしかけたサトシを必死に追いかけた僕は、サトシを救おうとしたんじゃなくて僕自身が救われたかっただけだった。

「なあ、シゲル、今日の放課後暇?」
「うん?なんでだい?」
「俺、アイス食べたいな……なんて」
「あー……いいかもね。折角だから付き合ってあげるよ、サートシくん」
「やった!」

 そこにはきっとサトコもいるし、もしかしたらゴールドが、スイが、シュリがついてくるかもしれない。けれど僕たちは絶対に隣同士で、みんなもそれを知ってる。ゴールドになんかは気持ち悪いくらい仲がいいと言われるけれど、僕はそれが嬉しかった。
 けれど、不意にどろりと胸の中を溢れるものが零れる時がある。それは決まって、僕以外の誰かに向かってその眩しい太陽みたいな笑顔が向けられている瞬間を目にした時だ。
 ――それはダメだよ、サトシ。
 決してまだ自分から手を伸ばすことはできないけれど、いうことはできないけれど、この距離に甘んじているけれど。自分はいつか、サトシの全てを求めるのだろうと思う。怒った顔も泣く顔も、涙を流すことをやめてしまったあの時の暗い表情も、今こんなにも輝く笑顔も、全部、いつかは自分のものにしたいと願ってしまっている。
 それは、まだ、誰にも言えない、秘密。

「何味食べようかなあ、チョコにしようかな、イチゴがいいかな」
「相変わらず子どもっぽい味覚だね、キミは」
「なっ、だっておいしいじゃんか、別にいいだろ!」
「悪いなんて言ってないだろ?」
「言った!」
「いーや、言ってないね」

 ――ねえサトシ、馬鹿みたいだろう。こんな子どもっぽいやりとりですら僕は楽しくていとおしくてたまらないんだよ。
 僕と君は“特別”で、きっとこれからもそれは変わらない。僕がそれを変えないから。このまま楽しい時間はいつまでも続くし、サトシの笑顔を一番そばで見続けるのは、間違いなくこの僕だ。

「なあシゲル、今日はもう二人で行っちまおうぜ!」
「いいのか?サトコ、後で拗ねるかもしれないよ?」
「いーいーの!ふたりの秘密。なっ?」
「仕方ないねえ、そういうことにしてあげるよ」

 ――ほら、やっぱりそうだろう?



01.とても近い距離

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少しだけヤンデレ。導入です。


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