朝起きて初めにするのは下のベッドで眠っている愚弟を叩き起こすこと。気持ちよさそうに布団に丸まるように眠っているゴールドの布団を剥ぎとれば、心底機嫌悪そうに罵声を浴びせかけられた。

「何すんだよこのクソ兄貴!!」
「かわいいかわいい弟が遅刻せんように叩き起こしてやっただけやけど?」
「もっと起こし方ってもんがあるだろてめえ……」
「あー?聞こえへんなあ。弁当作ってほしかったらさっさと起きて準備しぃや」

 舌打ちは聞こえないことにして、シキはさっさとベッドから離れて台所へ向かった。冷蔵庫の中には昨日の晩の残りが入っているし、炊飯器の中には炊き立ての白米がある。二人分の弁当箱を取り出しながら眠たそうに目をこすりつつやってきたゴールドに目をやった。

「えらい眠そうな顔しとるなあ。先に顔洗ってき」
「ん……」

 ゴールドとシキは母親が違う、腹違いの異母兄弟だ。高等部に上がると同時に家を出て一人暮らしを始めたシキを追いかけてゴールドは同じ学園の中等部に通うのならばシキの家からの方が楽だという理由で両親を説き伏せて、シキの部屋に転がり込んだ。嫌みのいくつかは零したものの、そのままシキはゴールドを受け入れ、それからはそのまま二人暮らしをしている。

「飯は?」
「納豆と昨日の残りの味噌汁」
「またかよ……」
「文句あるなら自分で作ったらどないや?」
「食べるっつーの」
「よろしい」

 弁当を手早く作り終え、自分の分の納豆――と冷蔵庫をあけるが、二つ残っていた筈のもうひとつが見当たらずにあれ、と思い食卓に目を移す。すると、ゴールドが既に出してくれていたらしい、未だ未開封の納豆を見つけて思わず笑ってしまった。

「ありがとな」
「……俺、着替えてくる」

 ぷい、と顔をそらし、足早に着替えに行くゴールドの背中を見送ってシキもかきこむように朝ご飯を胃へと詰め込んで、その後を追った。

「お茶、ペットボトル買ってきてあるからそれ持ってきや。自販機で買うたら高こうつくから、昨日買い出しついでに買ってきたで」
「さんきゅー。じゃあ俺、先に行くから」
「女の子待たせたらあかんで」
「ばっ……!!」
「ほれほれ、行くんやろ。弁当も忘れんなよ」
「……、行ってきます!」
「おう」

 開いていた携帯を閉じ、ゴールドは急いで玄関から出ていく。メールでも来ていたのだろうか、と思うと思わず頬が緩むのを感じてシキはクツクツと笑いながら、中等部の学ランとは違う、ブレザーに腕を通した。



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初代ではアキラ(水晶)がシキの妹なんですが、ちょっと別扱いで。


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