「こら、サトシ、サトコ!いつまで寝てるのあなたたち!」

 んう、と声を上げたのはどちらだったのか。ハナコの大きな声にごしごしと同じようにごしごしと目をこすり、二人はゆっくりと身体を起こした。

「早くしないと遅刻するわよ!というか、シゲルくん、もうすぐ来ちゃう時間よ?もう、毎日毎日……ほらほら、起きなさい!」
「はあい、まま……」
「っていうかサトコ、お前いつはいってきたんだよ……」

 ごそごそとベッドから這い出てくる黒と金の双子を確認してハナコはまた台所へ戻っていく。
 子供部屋のベッドは二つある。オレンジ色と青色に分けられたそれは、サトシとサトコのために置かれたものだ。だが、毎晩と言っていいほど頻繁にサトコはサトシのベッドにいつの間にかもぐりこみ、二人で抱えあうようにして眠っている。もう二人が幼いころの習慣となってしまった今では、母親のハナコですらそれについてコメントをすることをやめた。

「サトシ、今何時――ってこれはやばい!!」
「え?うわっ、もうこんな時間かよ!」

 いつもよりも少し遅れてしまったことに気付いた二人はばさばさと豪快にパジャマを床にベッドに脱ぎ捨てて中等部の制服である学ランとセーラー服を身にまとっていく。いち早く着替え終わったサトコはパジャマをそのままに部屋を出て行こうとするが、サトシがその腕を掴んで引きとめる。

「おまえ、パジャマ!たたまないとママが……っ!」

 あ、と今気付いたと言わんばかりに口を開いたサトコはじっとサトシと顔を見合わせたかと思うと、二人同時にへにゃりと笑顔を作って頷き合った。

「今日は仕方ないよな、サトシ」
「そうだな、遅刻しそうだし、シゲルを待たせたら悪いもんな」
「よしっ!」

 そして二人同時に部屋から飛び出し、階段を駆け下りて食卓に着く。既に準備された食事を我先にと流し込み、準備されたオレンジと青の弁当袋をそれぞれ手に持ち、台所へ走っていく。

「まったく、そんなに急ぐのなら毎日ちゃんと早起きしなさい!」
「はあい!」
「そのうちがんばるかもっ」

 もう、と腰に手を当てて眉を顰めたハナコに気付かない振りをして二人は玄関から飛び出していく。

「行ってきますママ!」
「気をつけてね、こけないようにするのよ」
「うんっ!じゃあ行ってきます!」
「はいはい、行ってらっしゃいな」

 ぱたん、と閉じた扉を見ながらハナコは目を細める。

「まったく、うちの双子ちゃんったら。もう少し落ちついてくれないかしらね」

 そう言いながら、緩む頬は抑えられない。ただ、健やかに育ってくれている自分の息子と娘がいとおしくてたまらなかった。



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ママが大好きな双子の朝は、にぎやか。


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