旧夢 | ナノ

▼ジョルノ:告白されるJK

終わったことがいつまでも蘇る。
その日は散々だった。
寝癖でよれた前髪は中々治らなかったし、授業中に落とした消しゴムは教室の隅の、よりによって食べカスの上に落ちた。
可哀想な消しゴムは自身になんの罪もないのに今でも教室の隅にあるだろう。
そんな些細なことが頭に引っ掛かって仕方がない位に鬱屈した日だ。

うんざりして真面目に通うつもりではあるけど今日限りと言い訳をして中庭へ歩いた。
次の授業には出よう。
ルジーナはミンディと仲直り出来ずに私を探すだろう。
退屈でつまらない、幸せな女の子達。

一際花の匂いの強い花壇の奥にベンチを見つける。
アーチに巻きつくように育った植物がベンチに座った人を外界から遮断する。
ついてない日はたまにある。気の持ちようだとも思う。
一度も尊敬すらしなかった父に一体何を求めていたんだろう。
何となくそれが手放しで愛してくれる保護者だったのだとわかっているだけに己の身勝手さや、無い物ねだりの愚かさに情けなくなる。

彩度を落とした花に囲まれて何をするでもなく目を閉じていると人の気配がした。

「やぁ。」
その主は黒髪を太陽に照らされて、植物の陰にいる私を見ていた。

「貴方の場所だった?」
浮かない気持ちを喉の下に隠して問うと、彼は口角を僅かに上げた。
「いいや、ここは誰の場所でもない。君が先なら君が使うべきだ。でも、嫌でなければ隣に座っても?」
「どうぞ」
ベンチは三人掛けだ。もとより端に座っていたから、彼の分のスペースはある。
「君、ナマエだろ。」
「ええ。知っているの?」
「同じ学年だよ。僕はジョルノ・ジョバーナ。」
「ああ、聞いたことがあるわ」
「本当に?悪い噂じゃないといいな」

女の子に人気よ、と思ったところでルジーナが浮かぶ。
きっかけは些細なことだ。

彼女が、ルジーナが父親とお弁当を取り違えたのだという。
配管だか電気設備だかの業者をしている彼の父親のお弁当箱は包みの中で無骨なおじさん臭い形をしていた。
幸せそうだな、と堪らなく羨ましくなってしまったのだ。
日本に居場所が無い。かといってイタリアでの生活をいつまで続けられるのかわからない。
リゾットは成人までと言ってくれたが、成人した自分が果たしてこのイタリアでどうやって生きていけるのだろう。

「悩みごとかな」
ジョルノの言葉に彼を見ると緑色の瞳とかちあった。

「日本人だろう。僕たち日本人には時々生き辛い場所だ。」
「イタリア育ちでもそう」
「君は日本に住んでいたの」
「ええ。…あまり経歴の話しはしたくないの。」
「なら、今の話をしよう。」

ここまで、彼は一度も私から目を離さなかった。何だか不穏な気配に思わず目を逸らしてしまう。動物同士のやりとりであれば、これは敗北だ。

「君に興味があるんだ。今日の放課後、いやいつでもいい。あいてないかな。」
思いも寄らない提案に短く溜息をついた。
「もっと怖いことを言うのかと思った。」
「何故」
「だって、貴方まるで獲物を見るような目よ。」

指摘されて、ジョルノは目を伏せて笑った。

「いや、緊張してしまったんだ。君に話しかけるタイミングをずっと見計らっていたものだから。」
「どうして。気になったのなら声をかければいいのに。」

貴方なら容易いはず、と胸の内で続ける。
ジョルノという少年は女子に人気のある生徒だ。彼が好きに行動したって誰も逆らうことはしないだろう。仮に逆らう子が出てきたとしても彼を困らせることはできないだろう。

真偽のわからない話に彼独特の口説き文句なのかと思う。
かといって嘘を述べているようにも見えず私は身じろぎしながら彼を見た。

目が合った一瞬だけ、彼の瞳が僅かに見開く。
直ぐに彼は穏やかな笑みを浮かべた。

「これは自慢とかじゃあなく、僕が君に声をかけたら君の友達が大騒ぎするかなと思ったんだ。」
「確かにね。」

ルジーナは煩いし、そうでなくとも他の女の子達の様子が目に浮かぶようだ。それだけジョルノは人気のある男の子だ。そんな彼が、気まぐれで授業をサボった私のために中庭まで追いかけてきてくれた。その事実は胸の奥深くに染み入ってはきたが、あの日、プロシュートに吸われた舌が疼いた。

「じゃあ、お友達を大騒ぎさせずに話しかけてみて。そしたら考えてあげてもいい。」

我ながら何て高慢な要求だろう。
機嫌を損ねてしまうと思っていたが、彼の反応は穏やかで、彼の瞳すら動揺をみせなかtた。

「わかった。」

短い返事の中に苛立ちは感じられない。
スルリと私の手を取ると絡んだ指にイタリアーノらしい口付けが落とされる。
瞳だけが此方を動かずに見つめていて、指に触れた唇が確かに笑った。

「僕はチャンスを無駄にしない。今日のことを覚えておいて」

恋愛に興味などない。こんな子供染みた世界で恋なんて下らない。
それでも彼に少しだけ、興味がわいてきたのだ。


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