旧夢 | ナノ

▼プロシュート:まるで捕食されるようだ

お前の教育は今日で終わりだ。

任務の帰り道、プロシュートに認められた。
別のチームからここに配属されて3ヶ月目に差し掛かる頃だった。
プロシュートの教育は殆ど犬の躾と同じで人間様が教わるにはかったるいことばかりだ。
やれ心構えだとか、覚悟の決め方だとか、やる時はやり、やらなければ死ぬだけなのだから心構えなどと無駄だと思う。それでも妹分として育てられているからには逆らうべきではない。
素直にハイハイと従って言われたことに機械的に従ってきた。

ここ数日は叱られる事も無く、会話も殆どないような調子だったので本当に言うことはないのだろう。今までのことに礼を言うとプロシュートは涼しげな顔で煙草に火をつけた。

アジトに戻り、任務の成果をリゾットに報告する。
報告は最近は私の役割だったが、後から通りかかったプロシュートが「教育は終わった」とリゾットに言って通り過ぎていく。短いやり取りだが二人にはそれで十分らしい。

「そうか…よくやったな」


短く礼を述べる。別に失礼な態度をとっているつもりではない。
仕事のやりとりに無駄は要らないだけだ。向こうもわかっているようで特に何も言われない。

アパートに帰りシャワーを浴びていると丁度出ようかという時にインターホンが鳴る。
バスローブを羽織って拳銃を手に、誰だ、と聞く。

「俺だ。」

プロシュートの声だった。拳銃はそのままにドアを開ける。
プロシュートの顔が室内の灯りに浮き上がるように照らされた。
その顔が笑顔であることで、来訪の目的はなんとなくわかるが、経緯がわからない。
おそらく祝ってくれるのだろう。彼にとって"教育"は大切なものだ。それを卒業した今は確かに祝われる日なのだろう。
しかし、祝うならアジトに居る間にすれば済む話だ。わざわざ家に帰ってから、という遠回りをする意味がない。プロシュートの整った目蓋が僅かに揺れ、瞳が、私を見る。
その瞳は拳銃を持っている手を収めると彼の口角が更に深くなる。
卒業後もこうして一々チェックされるんだろう。それはだるい。先行きが面倒だ。

「どうしたんです?」
「おいおいおい、敬語はなしだ。俺が認めた時からお前と俺は対等なんだからな。」

バサリ、と真っ赤な薔薇の花束を差し出されて反射的に受け取るが花束に掛かる金額とプロシュートの収入が脳裏に浮かぶ。3ヶ月もチームにいればメンバーの懐具合など想像がつく。だからこそ妙だ。
大体なんで薔薇の花なんだ。もっと安価に済ませられるだろうに。

「一人前になった夜だ。祝いにいくぞ。まずは準備だな」

こちらの返事も聞かずにずかずかとプロシュートはクローゼットをガバリと開ける。
対等とは言われてもどこまでも兄貴分な性質なのだ。

私は玄関ドアの鍵を閉めてから拳銃を置くとプロシュートの後についていった。
ベッドに広げられた今夜の服の候補を見てそれなりの値段のするところに連れて行かれるらしい。プロシュートの言った"対等"という言葉と自分の収入が脳裏を掠める。
まさか割勘とか言わないだろうか。

俺が買ってやったやつじゃねぇか。
とプロシュートはハンガーにつけたままのドレスを私の体に当てながら言った。
一流の服を持て、と言われた時だ。その服は戦闘には不向きで結局はしまい込んでいた。
一流の服を維持する金は馬鹿にならない。本当に何処から出てくるんだ。
芋臭いジャージだって下着だって仕事ができれば何でも良いじゃないか。


ドレスを着てくるように言われ、着て戻るとベッドに腰掛けたプロシュートから指示が飛ぶ。
「顔を洗ってこい。俺の前に座れ」

彼のすぐ傍にあるサイドテーブルの上に見慣れた自分の化粧品が並んでいた。

男であるプロシュートが化粧の方法を知っているんだろうか。
プロシュートに向き合うようにベッドサイドに座ると当たり前の様にメイクを施される。
口紅、アイラインと慣れた手つきでメイクを施された。
時には仕事で変装をすることもあるが、プロシュートはグレイフルデッドの能力があるためにあまり化粧をすることも無い。
どこで仕入れた技術なんだろうと思いながらされるがままにしている。
謎だらけの男だ。

仕上げに仰々しい動作で私の足に黒いヒールを履かせるプロシュートはベッドに座る私に対して御伽噺に出てくる王子様の様に肩膝をついていた。

「見違えるようだな、綺麗だ。」
「ありがとう。どこへ行くの」
プロシュートは笑みで口元を歪ませたまま、私の手を引く。
引かれるがままに立ち上がり、プロシュートに肩を抱かれて家を出る。
鍵を掛けて、夜の街を歩く。

まるで恋人のようだ。準備をしている間からずっとお姫様のような扱いだ。
しかし、どうしても職業柄か、イレギュラーには構えてしまう。
プロシュートが此方を見た時に、街灯の光が彼の瞳を射した。青く反射する瞳は一瞬ながら目に焼きつくようだった。
ここまでされて鉄の様に心が浮つかない理由はわかっている。
終始笑顔のプロシュートの、瞳だけはギラギラと燃えるように輝いているからだ。


まるで捕食されるようだった


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