旧夢 | ナノ

▼ジョセフ:買い物

※ポルナレフ夢道案内のふわっと続編

スーパーから帰宅途中、駅前の薬局でウロウロとしている大柄のお爺さんを見つけた。
お爺さんと言ったって、背筋のピンとした、初老のマッチョなお爺さんだ。
いつだか見た記憶がある、そうだ。空条承太郎君のお祖父ちゃんだ。
英語でなにやら呟きながら歩いている。
どうしたんだろう。

声を掛けるかかけないか迷っている間、
お祖父さんは何人かに声を掛けて逃げられていた。
店員さんにすら逃げられている。
なんて店員だ、と思う反面、確かに英語では案内したくないって人もいるよなぁと思う。
近づいていくと、お祖父さんが私に気が付いた。
私も軽く手を上げてもう少し早足に近づいた。

「あー、えー、you空条?」
確信はしているけれど確認。
お祖父さんはkujoという音でパッと顔中で笑う。
はじけんばかりの笑顔で己の顔を指差して頷いた。
「yesyes!〜〜〜!」
早口に、実際はそうではないのかもしれないが、撒くし立てられて苦笑いする。
ゆっくり、と伝えると頬を掻いてゆっくり話し始めた。
彼曰く、化粧品が欲しいのだという。

ジェスチャーと英語、片言の日本語をほんの少し交えて理解しあう。
日本語の化粧品はどれがどれだかわからないらしい。それもそうだ。
既に口紅とファンデーションを手に持っているお祖父さんを見るに、
一式欲しいのだろう。

「You do use?(お祖父ちゃんが使うの?)」
自分でも怪しい英語で尋ねるとお祖父さんはニカッと笑った。
「イェエエエエエス」


「Eyebrow, eye line…アー」
私だって英語は得意じゃない。
目元を指したり、頬を指したりしてゆっくり説明をしていく。
口紅も全く似合いそうに無い色を選んでいるので、
手に軽く塗って色を合わせることを教えた。
言われた通りサンプルを手にチョンチョンとつけながら不思議そうな顔をするお祖父さんに、
「こっちの方が似合う」と言うと趣旨を理解してパッと笑顔になる。
楽しいらしく、お祖父さんの左手はあっという間に色とりどりになっていく。
まるでスイッチのオンオフのように切り替わる顔にこっちも楽しくなる。

「Which is good?(どっちがいい?)」
最低限似合う色、けれどちょっとずつ方向性が変わる。
こうしてお祖父さんがつけるのに聞くのも変だけど
片方は可愛い系、もう片方は美人系で、どっちがいいかと聞いてみる。
「Both!(両方!)」
豪快に二つとも買い物籠に突っ込んでしまう。お祖父さん、金持ちだな…。


お祖父さんとの楽しいショッピングを終えた頃、お祖父さんはゆっくりとした英語でランチに誘ってくれた。
ポルナレフを案内した事を思い出してくれたらしく、それも合わせてとても感謝してくれているらしい。
迷っていると
「Over there!」と言って向かいの喫茶店を指差す。
全国チェーンのドーナッツ屋だ。
私がにっこりして頷くと、より一層笑顔を濃くした。


一人二つずつ、ドーナツを頼んで窓際の席について
何故か楽しくてお互い顔を見合ってニカッと笑いあう。
お祖父さんのテスターでカラフルに染まった手が気になって、携帯していた化粧落としシートを一枚取って渡す。
手の甲をトントン、として見せると意図を察して消し始めた。

「ジョータロー、アー、思ウ?」
なんとお祖父さんは日本語に挑戦だ。
「Do you think?」
承太郎君をどう思ってる?と聞きたいらしい。
うんうん、と頷くお祖父さんに苦笑いをして、あんまり真剣だから本音を話すことにした。
「He scary(怖い)・・・little(ちょっとだけ)」
途中でお祖父さんの表情の変化を見て、付け足す。
uhhh…と唸るお祖父ちゃんは次の質問をしてきた。
「ポルナレフ、ハ?」
言われて、前の道案内をした夜を思い出す。
あんなキザな体験は初めてなのでこそばゆくもあるが、とっても素敵な思い出だ。
「fun&kind(楽しくて、親切な人)」
「ジョータロー too(承太郎もだ)」

上手く会話が疎通していない?それとも、祖父として孫の人気を上げたいって?
意図が読めなくなってきた会話を解釈するために、ドーナツを齧って時間を稼ぐ。
何となしに見た駅前の景色に、承太郎君が歩いているのを見つけた。
お祖父さんを探していたらしい。
向こうも気が付いた。目があうと彼はギョッとして、
帽子の鍔を下へ引いて深く被る仕草をしながら真っ直ぐ向かってくる。

私の視線に気がつきもしないでお祖父ちゃんはドーナツに齧り付き、
黄色い砂糖の粒を皿へポロポロ落としながら「ウマ」と言った。
筋肉のあるお祖父ちゃんが言う台詞じゃない。とっても可愛い。

「ジジイ」
背後まで迫った承太郎君が言う。
「oh」
お祖父ちゃんと承太郎君は英語で話し合う。
二人とも滑らかに会話を進めていくので聞き取れはしない。
きっと「何やってんだ」とかそんなところだろう。
暫く会話した承太郎君はお祖父ちゃんを連行する事に成功したらしい。
渋々立ち上がるお祖父ちゃんは「マタネ☆」という具合に挨拶をしてくれた。

「世話になったな」と承太郎君は一言添えて去って行く…と思いきや
カウンターでお祖父さんは立ち止まるとテイクアウトのドーナツを注文し始めた。
うんざりしつつも付き合う承太郎君は不良で怖いけど、しっかり孫なんだと思った。

今日の出来事を学校の友達全部に話したいけれど、女の子達が怖いから黙っていよう。
…ところで化粧品は一体何に使われるのだろう。


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