旧夢 | ナノ

▼承太郎:年上はお好き?

隣に住むナマエは俺の4つ上。家族構成は父、母、妹の4人暮らし。

俺がまだガキの頃の冬、いつもナマエはカーディガンの裾から少しだけ出るようにミニスカを履いていた。
馬鹿か、寒くねぇのか、とよく思った。

ナマエにいつから惹かれていたのかは知らないが、俺はこの時からナマエを意識していたと思う。
どうやっても下校時刻は合わないので、登校時間を合わせる様にしていた。
母親の丁寧な見送りがうっとおしい。いつもナマエを後ろから追いかける羽目になる。
そうやって途中まで一緒に登校した。
いつもお互いの近況について話していたが、ナマエは以前と全く同じような会話をする時がある。
俺との会話など、どうでも良くて一々会話を覚えていないのかもしれないが、そうは思いたくなかった。
それに苛立った俺が、ナマエの機嫌を損ねるようなことを言っても、ナマエは怒ることも無い。
次の会話では穏やかに笑って返すような人間だった。

歳を重ねる毎に気持ちは強くなっていくが、どうしても同じ学校に通うことは無い。
中学の半ばに、ナマエは忽然と姿を見せなくなってしまった。
高校に進学したことは知っていたが、全寮制とは知らなかった。
長期休暇の度に帰省していないかと、落ち着かない気持ちになったものだ。

結局、ナマエの高校が終わる歳になっても帰ってこなかった。
諦めかけた頃、家の前を歩いていた時にあまりにも自然にナマエが現れた。
狐に化かされているような気持ちになりながら、ナマエを凝視する。
思わず「姉ちゃん」と呟くとナマエが「ああ」と合点が言ったかのように納得した。

「承太郎君?」
記憶と殆ど変わらないナマエ。少しだけ大人びたが、これだけの年月だと変わっていないに近い。
むしろ、綺麗になった。可愛くもある。
真っ直ぐ見ていられねぇ、とすら思った。

「でっかくなったね。高校生か。」
ナマエは笑って言う。近寄ってきて、自分の背と比べる仕草をした。
「ああ」
「身長は?凄いね何食べて育ったの。」
「195だ。」
「おおお!あと5pで2mじゃん!!」
何に感動しているのだろう。中学生の頃のひねくれた気だるさは無かった。
それとも久しぶりの再会に喜んでいると思っていいのだろうか。いや、そういうわけではないだろう。
「別になりたくねぇ」
「そうか。そりゃそうだよね大きすぎても不便って言うし。」
「…」

言うだけ言って「じゃ」と突然去ろうとするナマエのドライさに面食らう。
当然俺はナマエを引き止めた。此処で逃したらまた後悔するってのが想像できた。
「何処行くんだ?」
「どっか食べに行く。家の中何にも無いんだよ」
「俺も行く。奢ってやるよ」
「奢りはいいよ。」

奢ってやりたいんだよ、と思うが何も言わないで着いていく。
昔のように他愛の無い話をしながら喫茶店を素通りする。
信号待ちの時に、いけ好かねぇ車が煽ってきやがった。
とっさにナマエの腕を引いて庇おうとするが、ナマエは車側に一歩踏み出しやがった。
とは言え、俺の力に敵うことも無く、上半身だけ素直に俺に引っ張られた。
排気ガスが鼻先をかする。ナマエはモロにくらっただろう。
咳き込むかと思ったが違った。
「ぶっ殺すぞ!イモ野郎!!」
ドスの効いた迫力のある発声だった。
中学の頃の、触ったら折れてしまいそうなたおやかなナマエはどうやら俺の思い込みだったようだ。
思わずナマエを見つめる。振り返ったナマエは軽く肩をすくめ、何事もなかったように微笑んだ。
その顔は記憶通りのナマエだ。何だこれは。俺は煙草を咥えずにいられなかった。

馴染みの定食屋に入るとナマエは店を見渡した。
「懐かしいな、まだこの店やってたんだ。
家の母さん、旅行ついでに寮に来ちゃうから一度も帰ってなかったんだ」
どんな気持ちで待っていたことか言ってやりたい。
俺はそれをかみ殺して「知ってる。」とだけ答えた。
「あ、知ってた?」

ナマエは、脈略も無く店主に丼ものを頼んだ。俺も同じものを、と注文する。半ばやけだった。

「承太郎君は高校で何してンの」
いつだか何度もした質問をしてきた。
「その質問好きだな。」覚えてねぇだろうが。
「そう?」
「前もそう聞いてきたぜ。」
本当に覚えてねぇのか。頭が痛くなってくる。
「そうだっけ?で、どうなのよ」
「アンタこそ」
いつまでもナマエの調子で話をするとあっという間に終わっちまう。
いっそ質問で返してやる。

「え、あー必須科目の英語がキツい…なんかこんな会話したことあるね?」
「苦手か」
いつも英語で困っているのか。壊滅的なのかもしれない。
「苦手が高じて嫌いだわ。落としたら短期留学しなきゃなんないかも。」
「俺が教えてやってもいいぜ」
「承太郎君高校生じゃん」
「俺は英語は得意だ。問題なんかねぇだろ」
「嫌だよ年下に教えてもらうなんてさ」
胸を正拳突きされた気分だった。
俺の気持ちなんて微塵も知らねぇだろう。途端に馬鹿馬鹿しくなる。
ナマエが一瞬不味い、という顔をした。俺の顔色を伺ってやがる。
くそ、情けねぇ所を見せちまった。

「そういや承太郎君いい年じゃん、恋人いる?」
本当にこいつは。
腹の立つ女なんて腐るほど居るが、ここまで胸を抉る奴はいないだろう。
「…テメーはどうなんだよ」
「え、まさか。居れば春休み中実家帰りなんてしないよ。」
「春休み中ずっと居るのか。」
「居る居る。食費とか色々浮くし。でも明日から暇になりそう」


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