旧夢 | ナノ

▼承太郎:これからもよろしく

春休みに突入して、卒業式を待つだけの二月、夜7時。承太郎が私の家に電話してきた。
18歳になってすぐ車の免許を取ると言って2週間後の今日、免許を取り終えたので、
今からどこかに出かけないか、というのだ。

そんな取って一番最初(聖子さんを除く)に私に電話してくれるなんて嬉しい。
私と承太郎はとてもいい友達だった。もしかして、親友かもしれない。
とにかく承太郎はスポーツカーに乗って現れた。

「え、承太郎もう車持っていたの。」
「まぁな。」

絶対聖子さんのプレゼントだ。バブルのせいか。すごいやバブル。
承太郎に「乗れよ」と言われて助手席に乗る。
免許取りたての運転は信用できないので半年は乗らない方がいい、とよく言われたが、
承太郎ならなんでも完璧だからホイホイ乗っちゃう。多分バスより安全だ。

「何処行くの?」
「そうだな、海でも行くか。」
「いいねーなんか青春って感じ。」

行き先も決めてないお誘いなんて承太郎可愛い。
とりあえず車を見せたかったんだ。そしてとりあえずドライブしたかったんだ。
男の子なんだなーと思いながら他愛のない話を聞かせる。承太郎はいつも聞く側。
そして暫くして話題がなくなると、私はいつも動物の話をする。承太郎は動物好きだ。
でも今日はしなかった。承太郎がどことなく緊張した感じだったからだ。
運転は上手だけど、やっぱり免許取立てだから運転に集中させてあげた方がいいのかもしれない。

海が見える道路を進み、海岸手前で車を停める。
夜の海は何も見えない。こりゃ失敗ですね。

「着いた!」
沈黙を破り、私は車から飛び出した。
承太郎も続いて降りる。潮風が冷たい。
「免許取れてよかったね。おめでとう。」
「ああ。」
「高校卒業してもたまにどっか連れてってよ。」
「…」
沈黙する承太郎に、あれ?と思って顔を見る。
「なんだなんだ、連れてってくれないってのか。」
野次を飛ばすような口調でふざける私。
承太郎はいつもながらどうでもいいおふざけには無反応だ。

「ナマエ。俺は大学へ行く。」
車をぐるりと周って私のすぐ隣へ来る承太郎。承太郎が立つと車が小さく見える。
「ああ、知ってるよ。先生が言ってた。当然ちゃあ当然なんだけど寂しいね。」
「俺は寂しくないぜ。」

はあ?そんな寂しいこと言う?と言葉には出さずに承太郎を見た。
真っ直ぐ海を見つめているので本気なんだろう。

「なんか今日冷たいね承太郎。」
「ナマエ。俺はお前との関係を終わらせるつもりはない。だから寂しいと言う認識は間違ってるぜ。」
「?」首を傾げて見せると承太郎は溜息をついた。
そして顔だけゆっくりとこちらを向いた。
「好きだと言ってるんだ。」

さっきまでさざ波として聞いていた波の音が突如映画のトーエーの冒頭として聞こえた。

呆然とする私に、承太郎は笑った。それは苦笑いに近いかもしれない。
車に乗り込む承太郎に合わせて、また助手席に乗る。

「…ん?なんかさっきの承太郎の言い方だと既に付き合ってるみたいじゃなかった?」
「夜にドライブする男女二人をお前はどう思う?」
「アベックだねー熱いね二人ィー」
「そういうことだ。」

暫く考えて、承太郎との交際を断る理由が見つからなかった。
ずっと一緒に居ても楽しいし、価値観も合う。聖子さんは素敵だ。
家の前に降ろしてくれた承太郎にお礼を言おうとして、かなり男前だってことに気がついた。
突然頬が熱くなった私に対して承太郎は「遅ェ」と言って再度助手席に乗るように示した。
それに従ってもう一度助手席に座る。

「鈍感でごめんね。」
「ああ。」
これからもよろしく。


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