旧夢 | ナノ

▼ポル:お馬鹿ver

学校から帰る途中、校門に白人のお兄さんが立っていた。
白人、というか、外国人を見て真っ先に想像するのは空条君のことくらいだ。
ハーフなんて、やっぱり珍しいから。

空条君に用事なんだろうな、と勝手に推測しながら通り過ぎようとする。
「あーオジョウサン?」
切れ長の目が私を見る。
長身で筋肉質、ピシッとした体躯のお兄さんはちょっと威圧感がある。

「はい?」
「クージョーシッテル?」
うん、と頷くとお兄さんは私の腕時計を指差して顔をギュッッッと顰めた。
白人の、何人だかは知らないけれど外国の人ってすごく表情が動く。

「時間、ですか?」
「そうそう」
時計を見せてやると首を振る。

多分、何時に空条君が来るか、ってことだ。
「空条君は図書室に多分居ますよ」
冬休みを挟んで暫く、空条君はファンの女の子全部を撒いてどこかへ行っていた。
そして帰ってきてから人が変わったように勉強を始めたんだ。
お兄さんは顔中に疑問を浮かべるように首を傾げた。

「アー」
私もちょっと困る。
ちょっと考えて、鞄をずっしりと重くしている英語辞書の存在を思い出した。
鞄から引っ張り出して、お兄さんの足元にしゃがんでメモ帳に単語だけ抜き出して書く。
お兄さんも私に合わせてしゃがんだ。
校門で二人、しかも片方は白人のお兄さんじゃあ目立ちに目立つだろう。

単語だけで伝わるだろうか、順番くらいは英文風味にしないといけないだろうか。
でも英語はからっきしなんだ。だってまず書き取りが出来ない。発音はもっと駄目。 

【he Library late Always】
メモを見せるとしゃがんだお兄さんは受け取ってくれた。
じーっと見て、「アー」と声を漏らした。

「呼んでこようか?」
「ナニ?」
「アイ コール クージョー」
「???」

英語を話すのが恥ずかしくなった。
リアルに通じないって結構来るものがあるな。
英語の先生に苦笑いされたのはこういうことか。

「ワタシ クージョー ヨブ オマエ マツ」

日本語はわからん、とお兄さんは気まずそうに頬を掻いた。
こっちだって自分でやったことながら気まずい。私は原始人かよ…
諦めてメモ帳に書き足す。
【WYET】


私はメモを見るお兄さんを置いて校舎へ走った。
靴を脱いで下駄箱へ入れ、図書室へ駆け込んだ。
「空条君?」
図書室の中で声を軽く張る。
受験生の癖に、うちの学校は図書室を使う習慣が無いものだから、空条君くらいしか居ない。
図書委員は空条君を恐れてサボったりする。

本棚の群れの奥には不機嫌そうな空条君が…居なかった。
「えー!?」
何処を探してもいない。居るのは椅子に寝そべっている女子が一人。
「空条君知らない?」
知らない子だけど、話しかけてみる。
「今日は来てないわよ」
「何してるの?」
よくよく見ると女の子は椅子に頬ずりしているように見える…気がする。

「何してるか聞きたい?」
「いや、えーとちょっと気になる。具合悪い?保健室まで…」
女の子がニタリと笑みを浮かべてこちらを見た。
「ここ、承太郎が座るんだ…」
「聞かなきゃよかった。」
空条君は苦労してるんだな…。
私は職員室へ行った。

空条君の担任に聞く。
「先生、空条君来てないですか?」
「お前、今日で俺が何度その質問に答えたと思う?」
「きっとこれで最後ですから。」
「今日は休みだよ」
先生はコーヒーをズズッと啜りながら答えた。
「どうも」
職員室を出ようとして、数人の女の子が出口を塞ぐ。
こちらが道を譲ると彼女達は空条君の担任の元へ真っ直ぐ進み、
「空条君はお休みですか」と聞いていた。
教師って大変だなぁ。

さて、お兄さんの所へ戻ることにした。
少し暗くなり始めた空の下、だだっ広いロータリーと校庭の間にある校門。
ポツンとお兄さんはまだ立っていた。

「ごめんね、クージョー休み。」
指でバツを作って走りながら言うと、言葉は通じて無くてもお兄さんは理解したらしい。
「アリガト」と片言で言うお兄さんに手を振って別れ、私は駐輪場へ向かうのだった。

「おい承太郎!」
ポルナレフは夕食を黙々と食べる承太郎に絡んだ。
ガバリと腕を回された承太郎は酒の匂いが強いと軽く睨む。
ジョセフは待ちきれないとばかりに、ふらりと台所、餃子を焼くホリィの元へ歩いていった。

「お前今日なんで学校にいなかったんだよ」
「行ったのかお前」
ポルナレフはウンウンと頷いた。
「日本人はもうちょっと英語を勉強したほうがいいぜェー全く喋れねーのな」
「同感だな。」
「でも女子高生は可愛いな!わざわざお前を探しに行ってくれたんだぜ。
承太郎が居れば学校の中を見て周れたのによー」
「サボって正解だったな」
承太郎は焼酎瓶に手を伸ばして、空だと気が付いて別の瓶を探した。
「こんなメモもくれてよー」

丸い勉強もしてなさそうな流行の字体で単語が書かれている。
「ここ、ここ!これなんか意味わからねーよな」
「wy…何だこれは?」
「これ書いてタターって走って行っちまったんだ。多分waitって書きたかったんだろ」
承太郎はここまで英語が駄目な奴が居るのか…と呆れた。
そこまで偏差値の低い高校じゃなかった筈だ。

上機嫌のポルナレフは、その文字を指でなぞると少ない自分の荷物へと仕舞い込んだ。
「これを日本の思い出としてとっておくぜ。あの子、あと5年待てばいい感じに成長しそうだしなぁ」

「どうせ向こうは覚えてやしねぇーだろ」


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