旧夢 | ナノ

▼ポル:道案内

ある下校途中のことだ。

「Excuse me...」
学校をでて暫く歩いた先、訛りのある英語で道を尋ねられた。
銀髪を逆立てたお兄さん。堀の深い顔は結構迫力がある。というか怖い。
英語の読み書きは苦手じゃない。けれど、発音と聞き取りは苦手。
かといって、こんな住宅街では他に聞く人もいないだろう。
逃げては可哀想。私は彼の話を聞いた。
ゆっくり、何度か同じことを繰り返してもらってやっと質問の意味が理解できた。


友人の家を探してる、地図を描いてもらったがよくわからない

私は手書きの地図を見た。英語で書かれたそれがいい加減なのはよくわかる。
実際にお兄さんの口から「ずさんだ!」という独り言が何度か飛び出していた。
よく推理しながら見ると、それが顔見知りの、あの空条君の家だと言う事がわかった。
空条ラブな友達と一緒にノートを届けに行ったことがある。

「Follow me」
ついてきて、と私は行った。
わざわざ家と反対方向へ行くのは面倒だったけれど、入り組んだ住宅街を英語で案内するのは不可能だ。
多分誰だってそうするし、私もそうしただけのことだ。
お兄さんは凄く喜んでくれた。悪い人、ではなさそうだ。

歩きながら、お兄さんとちぐはぐな英語で自己紹介をしあう。
自分の名前は下の名前しか言わなかった。彼はフルネームを名乗ったけれど。
「mr.ポルナレフ」
ノノノノ、と言われ、たどたどしいやり取りの果て、彼が呼び捨てでいい、というのがわかった。
恐る恐るそうしたけれど、年上を呼び捨てはなんとなく苦手だ。
話をしていると、空条家の誰かではなく、空条承太郎君自身との知り合いらしい。
私が同じ学校だと告げると、彼は「そうだと思ってた」と笑った。

社交的なポルナレフのおかげか、私たちはすっかり仲良くなった。
そして彼の怖い顔がいつの間にか可愛らしく見えるようになった。
ポルナレフから貰った飴を口に放り込み転がしながら、空条家についた。
帰りは真っ暗だな、と思うけれど別に損をした気持ちにはならなかった。
「This is the destination.」
片言(だと思う)の英語で和風なお屋敷を指差した。
彼は何度もお礼を言って、何度も握手をした。

あの不良の空条君の友達だから、きっと深く関わると危険だろう。
けれど、道のりはとても楽しかった。
満足感に浸りながら、「じゃあ」と言って立ち去ろうとすると、
突然ポルナレフは私の肩をガシッと捕まえて止めた。
驚いて見るとポルナレフは真面目な顔をして
「evening」とだけ言った。つまり、暗いから危ない、ということだ。
私を捕まえたまま空条家のインターホンを鳴らす。空条君は怖くて苦手だ。
どうしろって言うんだ?とハラハラしながら成り行きを見ることにした。
出てきたのは黒服の人数人と、白人のお爺さんだった。

あまり外国人を見ないのだから、私の頭の中は危険信号が出る。
映画のような光景、不良の空条君は不良どころかマフィアか何かだったのかも。
ポルナレフはおじいさんに文句を言って、それから私を手で示した。
私との会話のようにゆっくりと話しているわけじゃないからあまり聞き取れないが、
要は送りたいから車をだせ、と言っていた。
お爺さんはニコニコしながら「ジョータロー!」と家の中へ向かって呼びつける。
出てきた空条君に、ポルナレフを合わせて、それから私を紹介した。
いや、いいから、同じ学校だからって会わせてくれなくていいから。
呆然とする私を空条君がちらりと見て、日本語で「いいから送ってやれよ」と言った。
まさにその通りだ。

黒服の人が一人、運転につき、ポルナレフさんが当然の様に乗り込んだ。
つまり、俺が送る!ってやつだ。おじいさんと空条君に見送られて、車は発進した。
私は行き先に家の近くの公園を指定してから、ポルナレフと運転手さんにお礼を言った。
ポルナレフはウィンクをしてこちらこそ、的なことを言った。
車の中でも歩いていたときと同じように、ポルナレフとの会話は途切れない。

だけど車だとあっという間だ。
ゆっくりと話さないと通じないこともあって、ほんの少しの会話だけで到着した。
公園に着くと、私はお礼をもう一度述べて降りた。
ご丁寧に黒服さんも降りてお辞儀してくれる。
ポルナレフも降りて、そして私の隣まで車を迂回して歩いてきた。
家まで送ってくれるらしい。

「別にいいよ、家はあそこだから」と説明するも、彼は引いてくれない。
「危ないから」と半ば強引に送ってくれる。日本人の感覚は外国人には平和ボケしすぎているのだろう。
数百メートルの距離を一緒に歩く。
今度こそ自宅の前で、ポルナレフとさよならをした。

「ナマエ」
呼ばれて手をとられて、手の甲に唇が落とされるまで、スローモーションに見えた。
自分でもわかるほど真っ赤になって見上げた私をポルナレフさんは静かに笑っていた。
「Goodnight」

そう言って去って行くポルナレフの後ろ姿を見ながら、私はもう暫く呆然とするのだった。


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