旧夢 | ナノ

▼アバッキオ:爆睡

ここはいつものメンバーで食事をするブチャラティのレストラン。
食後すぐにフーゴとナランチャは出かけて行って、ブチャラティとミスタは仕事で出張中だ。
アバッキオと私は非番というか、つまり暇な日。

私はすぐに返事をして聞く体制にはいったが、正直アバッキオは苦手だ。
怖いし、なにより威圧的だ。
メンバーのなかで一番新入りの私。
イタリアのクォーターでタッパも威厳もない女の私。
童顔じゃないが、日本の血か、実年齢より3つ以上下に見られてしまうのが関の山の私。

アバッキオが気に入ってくれるわけもなく、かといって酷い事はされていないが、
所々で馬鹿にされてしまうので苦手だった。
きっと男だったら殴られてるんだろう。
折角の気持ちの良い午後なのだし、アバッキオも怒るのは疲れるだろう。
…なんて適当な口実を自分の中で構築して納得するとさり気無く出かけようとした。

「おいミョウジ」
まるで当然の様にアバッキオに呼び止められた。

「お前この後予定は」
「えっと、無いのでブチャラティの書斎の整理でもしようかな、と」
「そんなもんしなくていい」
最早日常になりつつある否定。
前もアレとかソレとかをしようとしたらするな、と言われたし、その前もだ。
結局試行錯誤して別の何かを始めるのだが、そういう時はいつも、
アバッキオは面白くなさそうな顔をしている。

「いいか、お前はそんな雑用ばっかしてっから低く見られるんだ」
アバッキオは食後の紅茶を飲みながら言った。
低く見てるのはアバッキオだけなんだよ…とは思っても言わない。
「今日は俺に付き合え」
断わるなんてこともできず、午後は胃の痛む時間になるということが確定した。

午後のやわらかい日差しの中、私はアバッキオの数歩後ろを歩く。
石畳にアバッキオの靴底がぶつかる音ですら、私を緊張させた。
「お前なにか好きなもんとかあるのか?」
「え、ええっと。」
質問の意図を測りかねる。だって突然聞かれても。
趣味?食べ物?物か行動かによって展開が決まってくる。
私は早くしろ、と言われない内に脳みそをフル回転させて返事をした。
「絶叫系が好きです!」
「そうか、じゃあ入るぞ」
「え?」
改めて見ると、アバッキオは映画館の前に立っていた。
映画館といってもポツンと存在しているだけで看板も大きくはなく、小さくて古い。
アバッキオは入り口のチケット売り場でゾンビものを二人分買うとずんずん入っていく。
私は追いかけつつ、己の観察力の無さに呆れるのと同時に『いや、ゾンビは絶叫じゃないだろ』と思った。

結局ゾンビものはハズレだった。
女の棒演技と大雑把なシナリオ。銃は脈絡も無く手に入る。
あんまりの内容に、アバッキオが怒り出すんじゃないかとヒヤヒヤしながら座っていた。
案外、アバッキオは大人しかった。それどころか、終盤のエンドロールで彼はフフッと笑ったのだ。

「あれは傑作だったな」
映画館を出てアバッキオは言った。
そうか、傑作だったか。私はつまらないと思ったけれど、それなら良かった。
「あんな酷い映画は久々だ」
やっぱり酷かったんじゃないか。逆に酷さがウケたらしい。
「お前もいい趣味してるじゃねーか」
ミスタの様に、頭をガシガシとされるわけでもないし、ブチャラティの様に褒められているわけでもない。
ただそう言われただけで、皮肉かどうかも判断がつかない。
そういう人なんだろう。と結論が出た。
別に笑顔でもないアバッキオからはいつもの不機嫌そうな威圧感は無い…ように見える。

もしかしてアバッキオはずっとこうしたかったんだろうか。
新人苛めかと思っていた行為は悪意でもなんでもなくて、ただ距離を縮めようとしていただけなんじゃ。
無意識に好意を叩き落としていたような自分の行動に背筋がゾッとする。
よくもまぁアバッキオにそんな無礼を働いたものだ。殺されちまうぞ。

「次は俺の好きなモンを見るからな。」
と言ってアバッキオは映画館の看板を見た。
数秒経って見るものを決めたらしく、入った二度目の映画はアクション映画だった。
大迫力のアメリカ映画だったのだが、隣を見るとアバッキオはすやすやと寝息を立てていた。
『勿体無いな』と思いつつ一人で最後まで見ようと思う。
見たかったんじゃないのか。最近疲れが溜まっていたのか。というか眠るくらいならとっとと解放してくれたらいいのに。

主人公がヒロインとキスをしてエンドロールに差し掛かったところで起き、事態を把握したアバッキオは
『起こさなかった』という理不尽な理由でもって機嫌を悪くしてしまったのだった。

そうして関係は最初に戻る。


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