旧夢 | ナノ

▼露→主→仗:心調不良

スタンドの能力が性格に表れるなんて知らなかった。
従兄弟の露伴に言われて からかわれたのが原因で折角制服に着替えたのに私は学校を休んだ。
明日からはちゃんと通うけれど、今日一日休む程度の大きなショックだった。

それでも私にとって事はそんなに単純じゃない。私は涙を乱暴に拭った。

「ナマエのスタンドは人に嫌われたくない八方美人な性格からきているみたいだ」と言う露伴に
「見たがりの癖に変態め」と反論できなかったのは露伴の言うことが図星だったからだ。
人に嫌われたくないくせに好かれる努力して魅力を持とうとしない。怠惰な性格。
確かにそんなスタンドだ。露伴のように強い自我もない。
なんでも持ち歩ける四次元ポケットなスタンド。
願ったものは自分の知っているものなら全て取り出せるが、私しか使えない。
一時的に貸すことは出来るが、私が近くに居ないと使えない。
便利だけど、普通に生活していれば滅多に使わない。
だから突然「貸して!」と言われた時の為にしか使ったことがない。

露伴のスタンドは彼自信の為によく役立っている。
私をからかう為に私の中身を覗くし、私が情けない人間だってのもよく知っている。
多分、私が仗助君に片思いしていることや、彼が何かなくて困っている時に話しかけられなくって
この力を発揮していないことをきっと知っている。本当に嫌になる。
露伴は意地悪だけど悪気はない。意地悪だけど楽しむ為にやっているだけで私を傷つけたいわけじゃない。
それはよく知っている。でも露伴を恨みたいほど知らなければ良かったと後悔してる。
自分が情けなくって本当に嫌。スタンドまで情けないなんて。

仗助君好き…!

脈絡もなく呪文のように脳内で唱える。
仗助君が好き。それでなんとか明日は学校に行ける。
ここまで前向きになるのに夕方までかかってしまった。
まだボロボロと馬鹿みたいに泣いている。自己嫌悪は体に毒ね。

家のインターホンが突然鳴った。
どうせ宅配便だろうと出たのがいけなかった。
両親は海外へ仕事で引っ越していたので、たまに突然宅配便が来る。
てっきりそれだと思っていたが、実際は長身の仗助君が立っていた。
真っ赤に腫れた目を見ただろうか。折角仗助君の瞳に映ったのにこんな姿なんて。
緩みそうになる涙腺をなんとか押さえて、どうしていいかわからずに立ち尽くす。

「と、友達が…ミョウジの友達用事があるって言うんでよォ。
俺が届けに来たんだ。明日数学小テストだから、ホラ、俺家ちけぇからさ」

仗助君は状況を打破しようとして早口に捲くし立てて、言葉を切った。
そして不意に作り笑いをやめて真面目な顔になる。

「ミョウジ、なんかあったのか?」

ドキンと心臓が不意打ちに鳴る。
話そうとしても言葉が出なくって小さく首を振っただけだった。

「そっか。なんかあったら言えよ。家、ちけぇからさ」

仗助君は「じゃあな」とだけ言って帰っていった。
私は受け取ったプリントとルーズリーフを持ったまま仗助君の背中を見た。
それから我に返って、玄関を閉めて、ずるずるとその場にへたり込む。

ボロボロ、なんて擬音じゃない。ダダダーッという擬音がまさにピッタリなほど泣いた。
ありがとうも言えなかった。明日、言う勇気はあるだろうか。
心臓がうるさい。でも止まってしまっては明日学校に行けなくなる。

明日絶対お礼を言おう。ありがとう仗助君、明日は学校行ける。


夜になって露伴が家に来た。
最高に機嫌の悪い顔で、露伴に似つかわしくないカメユーのレジ袋を持って。
一言「鍋だ」と言って渡された。

「なんで学校を休んだんだ。」

合鍵で勝手に侵入されて、鍋の準備を淡々と進めながら露伴に怒られる。
愚図で言いなりだけど落ち込むからなるべく考えないようにする。
露伴の苛々が頂点に達する前に言葉を探す。

「ちょっと具合が悪かった。」

真冬の今、昨日寝てる間にお腹を出してしまった、と続けた。

「いつもそうだな。お前。」

言われて「しまった」と思った。
今までも嘘の言い訳をする時はいつもこう言っていた。癖になっている。
多分、本当に体調が悪かった時はもっと違う言い方をしている。
…ここまで思い出すのが私と露伴のやり取りでパターン化しているのかもしれない。
この後悔も何度かしたことがある。

「ヘブンズドアーを使うまでもないな。」

露伴は安物のコップを戸棚から出しながら言った。
じゃああんなスタンド使わないでよ、と思ったけどまだ苛々している様なので言わない。
機嫌が良くっても何を根に持っているか知らないから、言った所ですぐ怒られる。
だからきっといつまでも言わないのだろう。

「それで、どうして休んだんだ。」
「別に。」
「ナマエ、僕は君を監督する義務がある。
面倒を見ろと頼ってきた君の親を心配させたくなかったら素直に事情を説明するんだな」

露伴の表情を見なくてもわかる。随分怒ってる。
居ないよりはずっと心強いけど、露伴は苦手だ。
妙に責任感が強くって、いつだってずけずけと人の領域に入ってくる。
露伴は意地悪じゃないことは知っている。
意地悪じゃなくてただ不器用なんだとは良く知っているけど。苦手なものは苦手だ。

露伴は、私が時々一日部屋で泣いて過ごす事をスタンドを使って知っている。
いつもは休日を使っていたけれど、今日は偶々平日で我慢が出来なかっただけだ。
どうせスタンドで知ることができるのにどうして一々聞くの。

白菜を箸で沈めながら露伴が怒るのをやめてくれないかな、と思った。
怒るのをやめる気配はないので仕方なく言葉を探す。

「今日は休んだけど、明日からはちゃんと行くよ。」

見つけた言葉はどう考えても露伴の神経を逆なでする言葉だった。
露伴は自分の質問に斜めに答えられることを凄く嫌う。もうこれは本格的に怒られるな。
覚悟していたのだけれど、意外にも露伴は何も言わなかった。

二人でお通夜のように鍋を食べる。露伴が話さなければ私も話す必要はない。
本当は露伴との夕食は、いつもはそれなりに楽しい夕食なのだ。
夕食を食べ終わって、お皿を流しへ運ぶ。
お皿を洗っていると露伴が玄関で靴を履く音がした。

「ナマエ、僕は帰るからな」
「うん。気をつけて」

露伴は結局不機嫌なまま帰って行った。

「そういえば」
露伴はどうして私が休んでいたことを知っていたんだろう。

‐‐‐‐‐

「クソッ」
露伴はナマエの家から出て、より一層腹が立ってきた。
鍋で随分暖かくなったが、まだ底冷えがする。

(それもこれも全部ナマエのせいだ)

前日ナマエに面白がって言ったスタンドの話をした。
いつものようにからかって終わりのつもりだったが、ナマエは予想以上にショックを受けていた。
露伴も流石に悪く思ったのか、学校帰りにどこかへ連れて行ってやろうと通り道のドゥ・マゴで待ち伏せた。
結果露伴は盛大に待ちぼうけをくったのだ。
皆勤賞をよく取るナマエが、まさか休んでいるとは思いもしなかったので心配も幾分かした。

(畜生、あいつ俺の気も知らないで)

露伴は歩きながら自分が情けなくなってきた。
最近自分の思った以上にナマエをからかうのも、
こうして嫌がられるほど過干渉なのも全て一度ヘブンズドアーを使ったあの日からだ。

(いい年をこいて、僕は素直に気を引くこともできないのか。)

まさか、露伴自身もナマエに惚れていたとは知らなかった。
始まった時にはすでに終わっていた。相手が仗助なのはどうでも良かった。いや、良くはないが。
どちらにせよ、ナマエに嫌われている時点で望み薄だ。

どうかこの気持ちが勘違いであってくれ。そうしたら全てすっきり終わる。
露伴はナマエに対して一人相撲を取る自分が情けなかった。


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