旧夢 | ナノ

▼露伴:創造主露伴

漫画の世界にトリップする話があるなら、漫画の世界の住人が現実へ行くこともあるだろう。
逆トリップ。

目の前の腹だし男が語る手前、私はきょとんとするばかりだった。
どこかの家のリビングのソファに、私は座らされていた。
なんとなく私が逃げられないように、私の向かいに座っている腹だし男とリーゼントの二人。

腹だしの岸辺露伴という男が語っている内容だと私は二次元の人間で、
岸辺は漫画家。リーゼントは現実の人間だという。
「んー?」
納得しない、という顔で首を傾げるとリーゼントが
「そりゃいきなり言われても信じらンねーよなぁー」と言う。
その通りだ。

「少なくとも、ここは君の世界じゃないし、この漫画に登場している人物はまさに君だ。」
渡された漫画をみると特徴が私にピッタリの、コミックイラストにデフォルメされた女の子がいる。
「主役じゃないのね」と呟きながらパラパラ眺めていくと最近の出来事が描かれている。私は本当に漫画の世界から来たようだ。

私は所謂少年誌のギャグ漫画の登場キャラ。私はマイペースで目立たない脇役の女の子。
親友の美奈がヒロインで、事の成り行きを傍観する設定らしい。アイツがヒロインか。

「うーん。」
理解はしたけど納得はしない。
「君に興味がある。暫くこの家に住むことを許可しよう。」
この腹だし男、目が獲物を狙うかのように光っている。こいつはサイコパスの匂いがするぞ。
とはいえ、家においてくれるならこれ以上のことはない。

「帰るまで保護してくれるってこと?」
「僕のキャラクターだしな。」
「えッ!露伴のキャラなのかよ!」
リーゼントが驚く。がっかりしているようでもある。
私も私で驚いた。もっと金持ちで可愛くして欲しかった。
「他に誰がこんなに可愛いキャラクターデザインが出来っていうんだ?」

こいつの好みで出来ているらしい。



露伴はピンクダークの少年という小難しい漫画を描きながら、
息抜きに頭の悪い漫画を描きたくなったそう。それで出来上がったのが私の世界だ。
連載もなく、ただ単行本化しただけなので知名度もあまりない、一部のファンだけが知っているものらしい。

「さあ、問題は解決したんだ。コイツはスタンド使いでもない。仗助は帰れよ」
活き活きとし始めた腹だし男は仗助を追い出しにかかる。
「お前そりゃねーだろォ!キャラクターだろーとお前と二人っきりってのはナマエちゃんが心配だぜ」
「私も怖い。」
男と二人っきりってもう嫌な予感しかしない。しかも腹だし男だ。

「…もうちょっと知能の低いキャラにしておけばよかったな。」
という露伴の呟きが聞こえた。思わず仗助を見る。
仗助は仗助で、私を見て困った顔をしている。露伴がいきなり何かを出した。

「ヘブンズ・ドアー!」
何かの衝撃を受けた仗助が家の外へ吹っ飛ぶ。
「ろ、露伴テメー!」
外で叫ぶ仗助は自力で入れないらしい。
「『東方仗助は今すぐ家に帰って就寝する』じゃあな仗助。」
玄関越しに露伴が仗助を笑う。
仕方なく帰っていく仗助に窓から手を振る。仗助は気をつけろよな、とジェスチャーを残していった。

「露伴から出たやつ何?」
「ヘブンズ・ドアーか?…そうか、僕のキャラだから見えてもおかしくはないな。
さて、夕飯にしよう。何か作れよ」
「え、私?」
「そうだ。出来ないとは言わせないぞ。君は料理が出来る。生活に必要なものはそつなくこなす設定だ。」
「…これは気持ち悪い」聞こえないように呟いた。
まるでストーカーと一緒に居るようだ。
それでも嫌いになれないのはやっぱり生みの親だからだろうか。

台所を漁りながら適当なものを作る。
たまに作る程度で、日常的には料理をしないのだろう。
新品同様なので他人のキッチンでも使い勝手が良かった。

出した料理に露伴は何も言わないで手をつける。
「あのさ、露伴が私を作ったんならさ、私の体質を変えてくれない?」
露伴が食事を中断して此方を見る。
「美奈が食べてるの羨ましいんだよね。私も食べても太らない体質欲しい。」
「他には?何か無いのか?」
「え、いいの!?えっと、あと車が欲しい!軽自動車!!免許は頑張って取るからさー」
「他には?」
「え、そんな贅沢いいの?じゃあ…。」
そこで私は露伴を見た。此方を真っ直ぐ見つめる目は私の願望をとても叶えてくれそうにない。
「…流石に怪しいな。どうせ叶えてくれないってオチでしょ」
フッと息を漏らしながら露伴は顔を伏せる。次に肩を震わせ、ついには箸を置いて笑い出した。

「そうか、お前って…そういうやつか!」
笑いながらわけのわからないことを言う。ひとしきり笑われてから露伴は言った。
「ナマエに細かい設定は組んでいないからな。これは面白いぞ」
「なんかそれ凄く失礼じゃない?」
「失礼なもんか。君に与えたのは自由だ。君は思ったように行動すれば良い。設定が無いんだからな。」
「うーん」
「釈然としないって顔だな。後でもう一度その表情をしろよ。描いてやる」
「じゃあ釈然としない話をしてよ。」

食事をしながら色んな話をした。
美奈をどう思っているか、とか、露伴はあのシーンをどうして描いたか、とか。
食事が終わる頃には露伴と大分打ち解けていた。

「これからよろしくね。」
「ああ」
露伴がニヤッと笑った。
比較的爽やかな微笑だったけれど、多分彼は普通に微笑むことは出来ないのだろう。


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