どきどき、してきた。
今の私は楽しみと緊張の狭間でふわふわしていた。
「ふ、古橋くんっ」
「あぁ、行こうか」
今日のバスケ部は部活会と言われる話し合いだけのようで、その部活会もすぐ終わるという事で私はバスケット部室前で古橋くんを待っていた、勿論古橋くんは優しいから教室で待っていてもいいと言ってくれたのだけど。
しかし部室棟から教室まで戻るより部室棟から直接帰った方が手間がかからないと古橋くんを説得して私はこうやって部室前で待たせてもらっている。
けして、古橋くんの彼女面をしたいわけじゃないんだからっ………。
「ところで、長谷川の家は大丈夫だったのか?」
「大丈夫って?」
「良く考えたら見ず知らずの男が女性の家を訪ねるのは良くないんじゃないかと思ってな」
「あ、それは大丈夫!」
昨晩、一生懸命お父さんを説得して今日のお礼という名の食事会のためにやれることはやった。
そして今、私は古橋くんと肩を並べて帰宅している。
そう、大丈夫だ、あとは古橋くんの口に合う料理を作れるかどうかだ!
「そうか、長谷川の手料理、楽しみだな」
「う、うん、緊張するな…」
「……だろう」
「えっ?」
よく聞こえなかった、何かを呟いたと言うことだけ分かった、なんと、言ったのだろう……。
疑問符を投げかけて問いが返ってこないということはもしかしたら特に何も言っていなかったのかもしれない、それか私に関係ないことかも。
二度も聞き返すのはなんだか恥ずかしくてやめた、私とした事が大好きな古橋くんの言葉を聞き逃すなんてっ。
「ただいまー」
「お邪魔します」
私が家の扉を開けて古橋くんを招き入れる、古橋くんは丁寧に入室の挨拶をしてくれた。
「一葉、おかえりなさい、それから古橋くん、いらっしゃいませ、ゆっくりしていってね」
「はい、お邪魔します」
お母さんは直ぐリビングからやってきて古橋くんを出迎えた、それにあわせて古橋くんも深く頭を下げた。
「あら、いい子ねぇ」
「お、お母さんもういいでしょっ」
「はいはい、張り切りすぎて怪我しないでよー」
「しないよっ」
漸く玄関からわたし達はリビングへとあがれた、お母さんはお話好きだから、こうして人が来るとなかなか離してくれないのだ、すると隣で古橋くんが少し笑った。
「母親と仲がいいんだな」
「ごめんね、話好きだから…」
「気にしていない、こういうのは初めてだから楽しいよ」
「そう、かな…よかった」
楽しそうな古橋くんにテレビのリモコンを持たせ、ソファーに掛けさせて私は台所へ向かった。
するとソファーの方からこちらに古橋くんがとことこ歩いてきた。
「手伝わなくて平気か?」
「まかせて!それにお礼なんだから古橋くんが手伝ったら意味ないもん!」
「そうか、なら待たせてもらう」
優しいな、古橋くんは。
そういう優しい所も好きなとこだ。
思えば古橋くんを意識し始めたのもそんな彼の何気ない優しさからだったっけ。
私は一度深呼吸して大好きな人のために精一杯の感謝を込めて…料理に向かった。
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