小説 | ナノ




贖いの慟哭
自分を偽る事程の罪は無いのかもしれない、だけどそうしなければ生きれない、そんな悲しい人も居ると思う。

「花宮」
「……んだよ」
「もしも明日私が死んだらさ、笑ってくれる?」

今日も机と本棚とベッドしかない私の部屋で勉強する彼を呼んでみる。
質問は至ってシンプルで、私が死んだら笑うか否か。
なのに彼は眉を潜めて不機嫌になった。

答えは無い。

「じゃあさ、悔やんでくれる?」
「……クソみたいな質問すんじゃねぇよ、めんどくせぇ女だな」

人の部屋に毎日勝手に上がり込んで部屋の主には構いもせずひたすら勉強して帰る癖にめんどくさいとは酷い言いようだ。
大体そんなに私の存在が邪魔なら自宅で勉強したらどうなのだろうか、なんて過去に質問はした事有るけど、うるせぇと一蹴されて終わりだった。

「…笑ってよね、私が死んだら」
「……」

いつからこうなってしまったのだろう、昔はもっと仲良かった筈、いつだっけな。

「…ばかじゃねぇの、てめぇが死んで、俺が笑うと思うのかよ」

驚いた、まさかこんな下らない話に花宮が乗ってくれるなんて、思わなかった。

「私は私が死んでも花宮に笑っていて欲しいな、そう、思うよ」
「うるせぇよ、てめぇの気持ちなんか知るかよ」

昔からそうだ、花宮は私の意思を組んでくれたりなんかしなかった、いつだって人の不幸を笑ってた。
あの時を除いては。

「自分がどんな気持ちになってどうしたいかだろうが」

あ、そうかあの時からか、花宮が毎日私のところに来るようになったのは。
両親が死んだ、あの時からだ。

「花宮、私さー悔しかったんだよね、一緒に居たら一緒に死ねたかなーって毎日考えて、悔やんでた、悔やんでたんだね、だけどさお父さんもお母さんも私の泣き顔なんか見たくないかなーって強くならなきゃなーって思ってたんだよね」

嗚呼、悔しかったよ、やるせなかったよ、それから、それから。
悲しかったんだよ、苦しくて、辛くて、いっそ大きな声で赤子のように。

「泣きたかったんだなぁ、きっと」

ふと影が落ちて花宮の匂いがした、強く力の限り抱きしめられてた。強く抱きしめられて頭を撫でられた。
それがなんだか懐かしくて、そうこれは確か私が怪我して泣くとお母さんがいつもしてくれた事。
頭を撫でるのはいつもお父さんだ、頑張ったねって褒めてくれる時。

「ばかだろ、誰が泣いちゃいけないなんて言ったんだよ、誰が頑張れなんて言ったんだよ、独りになるなよ、ばっかじゃねぇの、てめぇが死んだら悔しくて苦しくて辛くて……死にたくなるに決まってんだろうが」

嗚呼、心地いいな、花宮の声、低くて優しい声だ言葉は荒っぽいのに、なんでかな、嬉しい。

「はな、みや…わ、たし」
「死にそうな顔して笑うお前から目が離せなかった、だけど今まで何て声をかけたらいいか分からなかった……悪かったなさちこ、俺が死んだら笑ってくれるか」

私は力いっぱい首を左右に振ってそれから力の限り慟哭した、花宮は私が疲れ果てて眠るまで傍に居てくれたようだった。

「真、私が好きって言ったら喜んでくれる?」
「くだらねぇ質問してんなよ、ばーか」



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